過活動膀胱に対する治療のフローチャート

過活動膀胱とは

過活動膀胱は、文字通り膀胱が活動し過ぎることによって、尿がそれほど溜まっていないのにも関わらず、排尿のための筋肉が緊張してしまい、突然我慢できないほどの尿意を感じることや、夜間睡眠中に何度も尿意で目覚めてしまうこと、時にトイレまで我慢できずに少し漏らしてしまう尿失禁などの症状を起こす疾患です。はっきりとした原因は分かっていませんが、脳からの排尿をコントロールする神経系統のどこかで異常が起こっていて筋肉がコントロールを失っていたり、知覚が過敏になっていたりする可能性があります。

過活動膀胱の症状

尿意切迫感

急に我慢できないほどの尿意が起こることを医療用語で尿意切迫感と言います。

昼間頻尿

朝起きてから寝るまでの間に頻繁に尿意を催しトイレに通うような場合昼間頻尿といいます。正常な排尿回数は人に異なりますが一般的には1日8回以上と定義されています。

切迫性尿失禁

急な激しい尿意に耐えられず、トイレに行く前に尿が漏れてしまうことを医療用語で切迫性尿失禁と言います。

夜間頻尿

眠っている間に1度でも尿意で目が覚めトイレに行くことが続くことが夜間頻尿と定義されています。一般的に治療が必要とされるのは夜間2回以上尿意で目が覚める場合です。

過活動膀胱の原因

過活動膀胱の原因は様々ですが、大きくは神経因性のものと、特に原因疾患が見られない特発性のものに分けられます。神経因性のものでは、脳血管障害、パーキンソン病、認知症といった脳に関する疾患からくるもの、脊髄損傷や頸椎症脊柱管狭窄症といった脊髄やそれに付随する神経根や末梢神経に関するものがあります。特発性に分類されるのは、前立腺肥大症、骨盤底筋のゆるみなどの他、まったく明らかな原因疾患が見当たらないものもあります。

過活動膀胱の検査・診断

まずは、尿意切迫感があって頻尿症状が出ていることなどをアンケート形式の問診票などで確認し、詳しくお話をお訊きします。
過活動膀胱は腎臓や膀胱そのものに疾患が見られないことが特徴です。各種検査で尿路への感染や結石、がんなどがないかどうかを調べます。普段の排尿状態を確認しておくことも大切ですので、排尿した時刻、量、飲水の時刻・量、尿漏れなどがあった場合はその時刻などを1日分として数日分を記録した排尿日誌を付けてご持参いただければ正確な診断に繋がります。排尿日誌のテンプレートはインターネットなどでもダウンロードすることができます。

過活動膀胱の治療

過活動膀胱の治療は、薬物療法、骨盤底筋体操や膀胱訓練などのトレーニングや生活指導、手術療法などがあります。

薬物療法

抗コリン薬

神経に作用することで、尿があまり溜まっていないのに膀胱が勝手に収縮してしまうのを抑える働きがある薬です。筋肉の緊張を緩めることで膀胱に尿を溜めることができるようになります。ただし口渇(のどが渇く)、便秘、かすみ目、めまいなどの副作用もあります。閉塞隅角緑内障がある方には禁忌薬となっています。

β3受容体作動薬

膀胱の筋肉にあるβ3受容体が刺激を受けると、膀胱の筋肉が弛緩します。この働きを利用することで、尿を溜められるようにする薬です。抗コリン薬と比べて副作用が少ないことが特長です。

行動療法

生活指導

患者様それぞれの適切な尿量にあわせて、水分の摂り過ぎや不足を補う適量飲水指導を行います。よくカフェインなど利尿作用のある飲食持つや香辛料を控えること、アルコール類を控えることなどを指導されますが、当院では、それぞれの飲み物の特徴や利尿作用の特徴を理解していただき指導を行っています。
アルコールはお好きで飲んでいる楽しみで飲んでいる方も少なくありません。アルコールと排尿時間の関係や特に利尿作用の強くなる飲み方などをお教えしながら生活指導を行います。例えばコーヒーを飲むと早期の利尿効果が出てくることにより中には30分くらいで排尿をしたくなる方もいます。しかしながら、その利尿効果は長くは持続しないため、飲む時間と場所を工夫すれば好きなコーヒーを楽しむ事もできます。
こうした生活習慣の見直しを行うことで、頻尿夜間頻尿、切迫性尿失禁といった症状を改善していくことが期待できます。
また、時間の余裕をもって行動し、外出時には早めにトイレ行く、トイレの場所を確認しておくなども切迫性尿失禁の予防には大切です。
高齢者の場合は夜間トイレに起きることで転倒しケガや骨折などから寝たきりになってしまうようなこともあります。トイレまでの動線をセンサー付きのライトなどで照明を確保することや、段差をなくす、手すりを設置することや、トイレに近い部屋に寝室を移すことや、寝室にポータブルトイレを置くなど環境の整備も大切です。

膀胱訓練(おしっこを溜める練習)

膀胱に尿が十分溜まっていない状態で排尿をする癖がつくことで、次第に膀胱が十分に蓄尿できないようになってしまうこともあります。そのため、膀胱訓練によって膀胱に蓄尿できるようにすることが大切です。
まずは、尿意を感じたときに5分間程度我慢することから始めます。毎回我慢する必要はなく、一日のうち、余裕のある時に何度かで構いません。徐々に我慢する時間を延ばしていき、最終的には2~3時間おきの排尿になることが目標です。

骨盤底筋体操

骨盤の底部にあって膀胱や直腸、子宮といった骨盤内臓を下から支える役割を果たしているのが骨盤底筋群です。骨盤底筋群が緩むことで様々な排尿症状が誘発されるため、意図的に骨盤底筋を鍛えて骨盤内臓を支える力を取り戻します。この体操を続けることで切迫性尿失禁なども改善することが期待できます。体操の方法は様々ありますが、基本は肛門を意図的に締めることで、女性はその時膣も一緒に締めます。最初は正しい動かし方が難しい場合があります。当院では骨盤底筋体操の方法についても指導していますので、お気軽にご相談ください。

骨盤底筋体操

手術療法

生活指導や行動療法、薬物療法などを行っても思ったような効果が得られない場合、手術を検討することになります。手術といっても開腹が必要なものではありません。多くの場合ボツリヌス療法を行うことになります。

ボツリヌス療法

ボツリヌス療法は、ボトックスというボツリヌス菌由来の成分を持つ薬剤を、膀胱内の過活動を起こしている筋肉に直接注射する療法です。ボツリヌス菌には筋肉を弛緩させる作用があり、この性質を利用しています。
治療は膀胱鏡下で行いますので開腹の必要はありません。膀胱鏡によって異常な収縮を起こしている膀胱の筋肉に20か所注射を行います。これによって膀胱の過活動は2~3日で治まってきます。人によって効果の持続期間は異なりますが、一般的には4~8か月は持続します。その期間に改善していない場合は、再投与が必要になりますので、再発した場合にはご相談ください。

TOPへ