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萎縮性膣炎が若年層に発症する原因と対処法〜専門医が解説

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萎縮性膣炎とは?若年層でも発症する理由

萎縮性膣炎という言葉を聞いたことがありますか? 一般的には更年期以降の女性に多いとされる症状ですが、実は若い女性にも発症することがあるのです。

萎縮性膣炎は、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの減少によって膣の粘膜が薄くなり、乾燥して炎症を起こす疾患です。従来は「老人性膣炎」とも呼ばれていましたが、最近では若年層での発症も増えていることから、この呼び名は適切ではなくなってきています。

閉経後女性の10〜50%、そして閉経前女性の約15%がこの疾患を発症すると推定されています。しかし、多くの女性が症状について医師に相談していないため、実際の有病率はさらに高い可能性があるのです。

特に注目すべきは、20代や30代の若い女性でも萎縮性膣炎が起こりうるという点です。若年層での発症には特有の原因があり、適切な対処が必要となります。

若年層に萎縮性膣炎が発症する主な原因

若い女性に萎縮性膣炎が発症する理由は、基本的にはエストロゲンの減少に起因します。ではなぜ若年層でエストロゲンが減少するのでしょうか?

最も一般的な原因は、産後の授乳期間です。授乳中は一時的にエストロゲンレベルが低下し、膣の乾燥や萎縮を引き起こすことがあります。この状態は「授乳性萎縮性膣炎」と呼ばれることもあります。

他にも若年層で萎縮性膣炎を引き起こす原因としては、以下のようなものが挙げられます:

  • 早期閉経や卵巣機能不全
  • 卵巣摘出などの婦人科手術
  • 放射線治療や化学療法
  • ホルモン抑制薬の使用(乳がん治療など)
  • 選択的エストロゲン受容体モジュレーターの使用
  • 抗ゴナドトロピン薬の使用
  • 月経不順(無月経、希発月経など)
  • 過度な運動やストレス
  • 極端なダイエット
  • 喫煙
  • 自己免疫疾患

これらの要因は、直接的または間接的にエストロゲンレベルを低下させ、若い女性でも萎縮性膣炎を引き起こす可能性があるのです。

特に注意すべきは、若年層での萎縮性膣炎は見過ごされやすいという点です。症状があっても「若いから大丈夫」と思い込んで放置してしまうケースが少なくありません。

萎縮性膣炎のメカニズムと若年層での進行過程

萎縮性膣炎が発症するメカニズムを理解することは、適切な対処法を見つける上で重要です。では、体内でどのような変化が起きているのでしょうか?

通常、健康な膣内ではエストロゲン濃度が30〜40 pg/mlに保たれています。この状態では、グリコーゲンを含む表層扁平上皮細胞が十分に存在し、膣内環境を健全に保っています。

乳酸菌(ラクトバチルス属)は膣内のグリコーゲンを乳酸に変換し、膣内のpHを3.5〜5.0の弱酸性に保ちます。この環境が病原菌の増殖を抑制する重要な防御機構となっているのです。

しかし、エストロゲンレベルが20 pg/ml未満に低下すると、表層扁平上皮細胞が減少し、傍基底細胞が増加します。その結果、グリコーゲンの供給が減少し、乳酸菌の数も減ります。

乳酸の産生が減少すると膣内のpHは5.0〜7.5へと上昇し、ガードネレラ、プレボテラ、アトポビウム、ストレプトコッカスなどの病原菌が増殖しやすい環境へと変化します。

若年層では、このプロセスが一時的なものであることが多いですが、原因が解決されなければ症状は持続し、さらに悪化する可能性があります。

若年層と高齢層での違い

若年層と高齢層では萎縮性膣炎の進行に違いがあります。高齢者では加齢に伴う自然なエストロゲン減少により、徐々に症状が進行することが多いです。

一方、若年層では原因となる要因(授乳、薬物療法など)が解消されれば、エストロゲンレベルが回復し、症状が改善することが期待できます。

ただし、早期閉経や卵巣摘出など、永続的なエストロゲン低下を引き起こす状態では、若年層でも長期的な管理が必要となります。

若年層の萎縮性膣炎の症状と見分け方

萎縮性膣炎の症状は年齢に関係なく似ていますが、若年層では症状を他の疾患と混同しやすい傾向があります。典型的な症状には以下のようなものがあります:

主な症状

  • 外陰膣の乾燥感
  • 灼熱感やヒリヒリ感
  • かゆみや刺激感
  • 性交痛(特に挿入時)
  • 性交後の痛み
  • おりものの変化(量の減少、色の変化、悪臭)
  • 少量の出血(特に性交後)

若年層では、これらの症状が膣カンジダ症や細菌性膣症などの一般的な膣感染症と誤診されることがあります。しかし、抗真菌薬や抗生物質による治療で改善しない場合は、萎縮性膣炎を疑う必要があります。

関連する泌尿器症状

萎縮性膣炎は膣だけでなく、尿路系にも影響を及ぼすことがあります。若年層でも以下のような症状が現れることがあります:

  • 頻尿(日中8回以上、夜間2回以上)
  • 排尿時の痛みやヒリヒリ感
  • 尿意切迫感
  • 再発性尿路感染症
  • 尿失禁
  • 残尿感

これらの症状が繰り返し現れる場合、特に通常の尿路感染症の治療に反応しない場合は、萎縮性膣炎の可能性を考慮すべきです。

自分で気づくのが難しいこともあるので、何か気になる症状があれば、恥ずかしがらずに婦人科を受診しましょう。適切な診断と早期治療が重要です。

若年層の萎縮性膣炎の診断方法

萎縮性膣炎の診断は、症状の評価、身体検査、そして特定の検査結果に基づいて行われます。若年層では特に他の疾患との鑑別が重要となります。

診断の第一歩は詳細な問診です。月経歴、妊娠・出産歴、授乳状況、薬物使用歴、手術歴などの情報が重要な手がかりとなります。特に若年層では、ホルモンバランスに影響を与える可能性のある要因を特定することが診断の鍵となります。

身体検査と臨床所見

内診では、膣の乾燥、膣壁の菲薄化、膣粘膜の赤みや点状出血、膣皺の減少などの所見を確認します。若年層では変化が軽度であることも多いため、注意深い観察が必要です。

萎縮性膣炎の典型的な所見としては、以下のようなものがあります:

  • 膣粘膜の薄さと脆弱性
  • 膣の乾燥
  • 膣粘膜の赤みや炎症
  • 点状出血(特に軽い接触で出血する)
  • 膣皺の減少または消失
  • 膣口の狭小化

検査と評価

診断を確定するためには、以下のような検査が行われることがあります:

  • 膣pHの測定:萎縮性膣炎ではpHが5.0以上に上昇していることが多い
  • 膣成熟指数(VMI)の評価:表層細胞、中間細胞、傍基底細胞の比率を調べる検査で、低エストロゲン状態ではVMIが0〜49の範囲となる
  • 膣分泌物の顕微鏡検査:乳酸菌の減少と他の細菌の増加を確認
  • 必要に応じて膣培養検査:他の感染症との鑑別のため

若年層では、他の一般的な膣感染症(カンジダ症、細菌性膣症、トリコモナス症など)との鑑別が特に重要です。これらの感染症は症状が似ていることがありますが、治療法が異なります。

萎縮性膣炎の診断では、膣の乾燥と薄さ、高いpH値、そして他の感染症の証拠がないことが重要な手がかりとなります。若年層での診断には、エストロゲン低下を引き起こす可能性のある基礎疾患や状態の特定も含まれます。

若年層の萎縮性膣炎の効果的な治療法

若年層の萎縮性膣炎の治療は、症状の緩和とエストロゲンレベルの回復を目的としています。治療法は原因や症状の重症度によって異なりますが、基本的なアプローチをご紹介します。

原因への対処

まず最初に、エストロゲン低下の原因に対処することが重要です。例えば:

  • 授乳中の場合:授乳の頻度や期間の調整を検討する
  • 薬物療法が原因の場合:可能であれば代替薬への変更を医師と相談する
  • 過度な運動やストレスが関連している場合:生活習慣の見直し
  • 極端なダイエットが原因の場合:適切な栄養摂取の確保
  • 喫煙者の場合:禁煙を推奨

ホルモン療法

エストロゲン補充は萎縮性膣炎の最も効果的な治療法です。若年層では、局所エストロゲン療法が一般的に選択されます:

  • 膣用エストロゲンクリーム:週に2〜3回使用
  • エストラジオール膣錠:初期は毎日、その後週に2回程度
  • エストラジオール膣リング:3ヶ月ごとに交換

局所エストロゲン療法は全身への影響が少なく、若年層でも比較的安全に使用できます。症状の改善は通常1〜2週間以内に感じられ、2〜3週間で顕著になります。

ただし、エストロゲン受容体陽性乳がんの既往がある場合や、血栓塞栓症のリスクがある場合などは、エストロゲン療法が禁忌となることがあります。

非ホルモン療法

エストロゲン療法が適さない場合や補助療法として、以下のような選択肢があります:

  • 膣保湿剤:定期的に使用することで膣の乾燥を緩和
  • 潤滑剤:性交時の痛みを軽減(水性または珪素ベースのものを推奨)
  • 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM):オスペミフェンなど
  • レーザー療法:フラクショナルマイクロアブレーション二酸化炭素レーザー療法(Fotona Smooth® インティマレーザー)
  • 高周波温熱療法:膣組織の再生を促進

これらの治療法は個々の状況や症状の重症度に応じて選択されます。治療効果は定期的に評価され、必要に応じて調整されます。

若年層では、原因となる状態が一時的なものであれば、症状の改善後に治療を段階的に減らしていくことも可能です。しかし、永続的なエストロゲン低下がある場合は、長期的な管理計画が必要となります。

若年層の萎縮性膣炎の日常生活での対処法とセルフケア

医学的治療に加えて、日常生活での対処法やセルフケアも萎縮性膣炎の症状管理に重要な役割を果たします。若年層の女性が自宅で実践できる効果的な方法をご紹介します。

デリケートゾーンのケア

  • 刺激の強い石鹸や香料入り製品を避ける
  • デリケートゾーン専用の低刺激洗浄料を使用する
  • 温水で優しく洗い、ゴシゴシこすらない
  • 洗浄後はやさしく拭き取り、完全に乾かす
  • 通気性の良い綿の下着を着用する
  • きつい下着や合成繊維の下着を避ける

保湿と潤滑

膣の乾燥は萎縮性膣炎の主要な症状であり、適切な保湿が重要です:

  • 膣用保湿剤を定期的に使用する(医療用または市販の製品)
  • 性交時には十分な潤滑剤を使用する
  • 油性の潤滑剤はコンドームを劣化させる可能性があるため注意
  • 水分摂取を十分に行い、全身の水分バランスを保つ

膣保湿剤と潤滑剤の違いを理解することが重要です。保湿剤は長期的な保湿効果を提供し、定期的に(2〜3日ごと)使用します。一方、潤滑剤は性交時の一時的な潤滑を目的としています。

生活習慣の改善

全体的な健康状態を改善することで、萎縮性膣炎の症状管理に役立つことがあります:

  • バランスの取れた食事を心がける(特に植物性エストロゲンを含む食品)
  • 適度な運動を定期的に行う(過度な運動は避ける)
  • ストレス管理のためのリラクゼーション技法を取り入れる
  • 喫煙を避ける(喫煙は血管収縮を引き起こし、症状を悪化させる)
  • 十分な睡眠をとる

性生活への対応

萎縮性膣炎は性生活に影響を及ぼすことがありますが、以下の対策が役立ちます:

  • 性交前に十分な前戯の時間を取る
  • 水性または珪素ベースの潤滑剤を使用する
  • 痛みの少ない体位を探る
  • 性交後に違和感や痛みがある場合は、冷たいコンプレスで緩和する
  • パートナーとオープンなコミュニケーションを維持する

これらの対処法は医学的治療と併用することで最も効果的です。症状が持続する場合や悪化する場合は、医師に相談することをためらわないでください。

参考文献:萎縮性膣炎について

まとめ:若年層の萎縮性膣炎への総合的アプローチ

萎縮性膣炎は更年期以降の女性だけでなく、若年層にも発症する可能性がある疾患です。エストロゲンの減少が主な原因であり、授乳、薬物療法、早期閉経、卵巣摘出などが若年層での発症要因となります。

症状としては、膣の乾燥、かゆみ、灼熱感、性交痛、おりものの変化などが現れます。これらの症状は他の膣感染症と混同されやすいため、正確な診断が重要です。

診断は詳細な問診、身体検査、膣pHの測定、膣成熟指数の評価などに基づいて行われます。若年層では特に他の一般的な膣感染症との鑑別が重要です。

治療は原因への対処、局所エストロゲン療法、非ホルモン療法など、個々の状況に合わせた総合的なアプローチが必要です。日常生活では、デリケートゾーンの適切なケア、保湿と潤滑、生活習慣の改善が症状管理に役立ちます。

萎縮性膣炎は適切な治療と管理によって症状を緩和し、生活の質を向上させることができます。症状に気づいたら、恥ずかしがらずに専門医に相談することが早期改善への第一歩です。

若年層での萎縮性膣炎は一時的なものであることも多く、原因となる状態が解消されれば症状も改善することが期待できます。しかし、適切な診断と治療が行われなければ、症状は持続し、合併症を引き起こす可能性もあります。

あなたの身体の変化に敏感になり、違和感を感じたら早めに対処することが、健康な生活を維持するための鍵となります。専門医による適切な診断と治療、そして日常生活での自己ケアを組み合わせた総合的なアプローチで、萎縮性膣炎を効果的に管理していきましょう。

 

〈著者情報〉

泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介 

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