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座ると痛い男性へ|慢性前立腺炎・骨盤痛の原因と改善法を専門医が解説

local_offer慢性前立腺炎

座ると痛む症状に悩む男性が増えています

「椅子に座ると下腹部や会陰部が痛い」「長時間デスクワークをしていると、骨盤周辺に違和感が出る」このような症状でお困りの男性は、決して少なくありません。実は、こうした痛みや不快感の背景には「慢性前立腺炎」や「慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」という病態が隠れている可能性があります。

慢性前立腺炎は、男性人口の10~15%がかかっているとされる高頻度の疾患です。

しかし、原因が特定されにくく、治療法が確立されていないため、多くの方が長期間にわたって症状に悩まされています。本記事では、泌尿器科専門医の視点から、座ると痛む症状の原因となる慢性前立腺炎・骨盤痛症候群について、その病態、診断、そして最新の治療法まで詳しく解説します。

慢性前立腺炎・骨盤痛症候群とは何か

前立腺の役割と構造

前立腺は、膀胱のすぐ下に位置する男性特有の臓器です。クルミ大の大きさで、尿道を取り囲むように存在しています。前立腺の主な役割は、精液の一部である前立腺液を産生することです。この前立腺液は、精子の運動を維持し、精子への栄養供給やpHの調整を行う重要な働きを担っています。

睾丸で作られた精子は、精管を通って前立腺内部を貫く射精管へと移動します。

この過程で、精嚢からの分泌液や前立腺液と混ざり合い、精液として完成します。つまり、前立腺は射精と排尿の両方に深く関わる臓器なのです。

慢性前立腺炎の分類と特徴

前立腺炎は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の分類によって4つのカテゴリーに分けられます。

カテゴリーⅠ急性細菌性前立腺炎

発熱や激しい痛みを伴う急性の感染症です。

カテゴリーⅡ慢性細菌性前立腺炎

細菌感染が慢性化した状態を指します。

カテゴリーⅢの「慢性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」

最も頻度が高く、細菌感染が関与せず、原因が特定できないことが特徴です。全前立腺炎の約9割を占めるとされており、10代後半から40代の比較的若い男性に多く見られます。症状が数か月から数年、場合によっては数十年にわたって持続することもあり、生活の質を著しく低下させます。

骨盤痛症候群とは

近年では、「慢性前立腺炎」という名称よりも「慢性骨盤痛症候群」という呼び方が適切だと考えられるようになってきました。なぜなら、痛みは前立腺周辺の会陰部だけでなく、下腹部、腰部、尿道、大腿部、鼠径部など、前立腺から離れた広範囲に及ぶことが多いからです。

痛みの性質も多様で、鈍痛、ピリピリとした神経痛様の痛み、ムズムズとした不快感など、患者さんによって訴えが異なります。

長時間座っていると悪化する、排尿時や射精時に違和感がある、といった症状も特徴的です。このように、症状が多彩で原因が不明確なため、診断や治療に苦慮するケースが少なくありません。

座ると痛む原因と仕組み

血流障害と炎症の関係

慢性前立腺炎・骨盤痛症候群の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。その中でも注目されているのが、骨盤周辺の血流障害と炎症の関係です。

長時間のデスクワークや自転車のサドルへの圧迫、尿道カテーテルの挿入などによって、前立腺周辺の組織に微細な損傷が生じることがあります。

こうした損傷部位では、炎症反応が起こり、不要な血管(いわゆる「モヤモヤ血管」)が異常に増殖します。これらの血管とともに神経も増生し、痛みの信号を脳に送り続けるようになると考えられています。通常、若い頃であれば炎症が治まるとともに不要な血管も自然に減少しますが、加齢とともにこの機能が低下し、炎症が慢性化しやすくなります。

骨盤底筋の緊張と神経の過敏化

もう一つの重要な要因として、骨盤底筋の過緊張が挙げられます。骨盤底筋は、骨盤の底部を支える筋肉群で、排尿や排便のコントロールに関わっています。ストレスや不良姿勢、過度の運動などによって骨盤底筋が慢性的に緊張すると、周辺の神経が圧迫され、痛みや違和感が生じることがあります。

さらに、神経成長因子(NGF)という物質の過剰発現も関与している可能性が指摘されています。

神経成長因子(NGF)とは

神経の成長を促す物質ですが、前立腺や膀胱で過剰に産生されると、神経が過敏になり、わずかな刺激でも強い痛みを感じるようになります。実際、動物実験では、NGFとその受容体であるTrkAの結合を阻害することで、症状が改善することが確認されています。

自己免疫や尿の逆流説

その他にも、前立腺に対する自己免疫反応が原因ではないかという説や、尿の成分が前立腺内に逆流して炎症を引き起こすという説もあります。また、心理的ストレスや自律神経の乱れが症状を悪化させる要因として注目されています。

このように、慢性前立腺炎・骨盤痛症候群は単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

診断方法と検査の流れ

問診と症状の評価

慢性前立腺炎・骨盤痛症候群の診断は、まず詳細な問診から始まります。いつから症状が始まったのか、どのような痛みや不快感があるのか、どのような状況で悪化するのかなどを丁寧に聞き取ります。また、NIH-CPSI(慢性前立腺炎症状スコア)という質問票を用いて、症状の程度を数値化することもあります。

このスコアは、痛みや不快感の程度、排尿症状、生活の質への影響を総合的に評価するもので、治療効果の判定にも用いられます。

直腸診と尿検査

次に、直腸診を行います。これは、肛門から指を挿入して前立腺を触診する検査で、前立腺の大きさや硬さ、圧痛の有無を確認します。慢性前立腺炎では、前立腺に圧痛を認めることがありますが、すべての患者さんに共通した特徴的な所見があるわけではありません。

前立腺マッサージ後の尿検査も重要です。

前立腺をマッサージすることで、前立腺内の分泌物を尿道に押し出し、その後に採取した尿を調べることで、細菌や白血球の有無を確認します。細菌が検出されれば細菌性前立腺炎、白血球のみが検出されれば炎症性の慢性骨盤痛症候群、どちらも検出されなければ非炎症性の慢性骨盤痛症候群と分類されます。

画像検査と鑑別診断

必要に応じて、超音波検査やMRI検査を行うこともあります。これらの画像検査により、前立腺の大きさや内部の状態、周辺臓器の異常の有無を確認できます。特にMRIでは、前立腺内の炎症による信号変化を捉えることができ、約9割の患者さんで異常な血管増生(モヤモヤ血管)が確認されたという報告もあります。

また、前立腺がんや尿路結石、膀胱炎など、似た症状を呈する他の疾患との鑑別も重要です。

血液検査でPSA(前立腺特異抗原)を測定し、前立腺がんの可能性を除外することも行われます。慢性前立腺炎でもPSA値が上昇することがありますが、治療により低下するため、前立腺がんとの鑑別が可能です。

従来の治療法とその限界

薬物療法の種類と効果

慢性前立腺炎・骨盤痛症候群の治療は、症状を和らげることが主な目的となります。従来から用いられている薬物療法には、いくつかの種類があります。

最もよく処方されるのは、セルニチンポーレンエキスという植物由来の生薬です。抗炎症作用があり、前立腺の炎症を鎮める効果が期待されます。また、漢方薬として竜胆瀉肝湯や桂枝茯苓丸なども用いられることがあります。

細菌感染が疑われる場合には、抗生物質が処方されます。

ただし、慢性骨盤痛症候群の多くは非細菌性であるため、抗生物質の効果は限定的です。痛みが強い場合には、鎮痛剤や抗炎症薬が用いられます。さらに、神経の過敏性を抑えるために、神経調節薬(抗うつ薬や抗てんかん薬の一部)が処方されることもあります。

排尿障害を伴う場合には、αブロッカー(前立腺や膀胱頸部の筋肉を弛緩させる薬)が有効なことがあります。

生活習慣の改善と理学療法

薬物療法だけでなく、生活習慣の改善も重要です。長時間の座位を避ける、適度な運動を行う、ストレスを管理する、十分な水分摂取を心がけるなどが推奨されます。また、骨盤底筋の緊張を和らげるための理学療法も効果的とされています。

骨盤底筋理学療法では、専門の理学療法士による指導のもと、骨盤底筋のストレッチやリラクゼーション、バイオフィードバック療法などが行われます。

認知行動療法も、慢性的な痛みに対する心理的アプローチとして有効性が報告されています。痛みに対する認識や対処法を変えることで、症状の改善や生活の質の向上が期待できます。

治療の限界と課題

しかし、これらの従来の治療法には限界があります。多くの患者さんが複数の治療を試しても十分な効果が得られず、症状が長期間にわたって持続することが少なくありません。実際、「もう治らないのか」と諦めてしまう方も多いのが現状です。

この背景には、慢性前立腺炎・骨盤痛症候群が不均一な症候群であり、患者さんごとに原因や病態が異なるという事実があります。

つまり、すべての患者さんに有効な「万能な治療法」は存在しないのです。このため、近年では患者さんを臨床的に意味のある表現型グループに分類し、それぞれに適した治療を行うアプローチが注目されています。

最新の治療法:UPOINTシステムと多様式療法

UPOINTシステムとは

UPOINTシステムは、慢性前立腺炎・骨盤痛症候群の患者さんを6つのドメイン(領域)に分類し、それぞれに対応した治療を組み合わせる多様式療法のフレームワークです。UPOINTは、Urinary(尿路症状)、Psychosocial(心理社会的要因)、Organ-specific(臓器特異的要因)、Infection(感染)、Neurologic/systemic(神経学的・全身的要因)、Tenderness(筋肉の圧痛)の頭文字を取ったものです。

このシステムでは、患者さんごとに該当するドメインを評価し、それに基づいて個別化された治療計画を立てます。

例えば、尿路症状が強い患者さんにはαブロッカー、心理的ストレスが大きい患者さんには認知行動療法や抗うつ薬、筋肉の緊張が強い患者さんには骨盤底筋理学療法といった具合です。複数のドメインに該当する場合には、それぞれに対応した治療を組み合わせます。

UPOINTシステムの有効性

UPOINTシステムの有効性は、複数の研究で確認されています。3つの独立した研究では、UPOINTに基づく治療により、75~84%の患者さんで有意な症状改善が得られたと報告されています。また、UPOINTスコア(該当するドメインの数)が症状の重症度と相関することも検証されており、治療効果の予測にも役立ちます。

このアプローチは、前立腺がんのTNM分類と同様に、患者さんを臨床的に意味のある表現型グループに分類し、表現型に基づいて治療を行うという考え方に基づいています。

画一的な治療ではなく、個々の患者さんの病態に合わせた治療を行うことで、より高い治療効果が期待できるのです。

カテーテル治療という新しい選択肢

カテーテル治療の原理

近年、従来の治療で十分な効果が得られない患者さんに対して、カテーテル治療という新しい選択肢が登場しています。これは、大腿部などから極細のカテーテルを挿入し、前立腺を栄養している前立腺動脈に抗生物質の溶液を注入して、一時的に血流を遮断する治療法です。

この治療の狙いは、前立腺周辺に異常に増殖した血管(モヤモヤ血管)を減少させることです。

慢性的な炎症部位では、不要な血管が増えて痛みや炎症が長引きます。これらの血管に対して一時的に血流を遮断すると、血管が減少し、炎症が収まり、痛みが軽減するというメカニズムです。使用される抗生物質(イミペネム/シラスタチン)は、血管内で凝集して一時的に血流を遮断する「塞栓物質」として働きます。時間が経つと体内で溶けるため、完全な血流遮断による壊死のリスクは低いとされています。

カテーテル治療の実績

2024年に発表された研究論文では、従来の治療で効果が得られなかった44名の男性患者に対してカテーテル治療を行った結果が報告されています。治療前に平均27点だったNIH-CPSIスコアが、治療6か月後には平均17点程度まで改善し、痛みのスコア(NRS)も平均7.0から3.4程度まで低下したとされています。

また、重大な合併症は見られなかったという点も重要です。

この治療は30分から1時間程度で終わる日帰り治療で、傷跡も小さく、体への負担が少ないのが特徴です。過去6年間で348名の患者さんがこの治療を受け、約9割が改善を実感しているという報告もあります。

低強度体外衝撃波療法

もう一つの新しい治療法として、低強度体外衝撃波療法(LI-ESWT)があります。これは、体の外側から低エネルギーの衝撃波を前立腺周辺に照射する非侵襲的な治療法です。衝撃波には、炎症を抑制する作用、血流を促進する作用、痛みを鎮静化する作用があるとされています。

具体的には、炎症反応を引き起こすサイトカインを抑制し、血管を広げる一酸化窒素の産生を促進し、新しい血管の形成を助けます。

また、痛みを伝える神経終末を破壊し、痛み関連の神経伝達物質を抑制することで、神経の過敏性を緩和します。この治療も非侵襲的で体への負担が少なく、骨盤周辺の血流改善や組織の修復・再生を促進する効果が期待されています。

日常生活でできる対策と予防法

座り方と姿勢の工夫

慢性前立腺炎・骨盤痛症候群の症状を軽減し、予防するためには、日常生活での工夫も大切です。まず、座り方と姿勢に注意しましょう。長時間同じ姿勢で座り続けることは、骨盤底への圧迫を増し、血流を悪化させます。

デスクワークの際には、1時間に一度は立ち上がって軽く体を動かすことを心がけてください。

また、クッションを使って骨盤への圧力を分散させることも有効です。ドーナツ型のクッションや、骨盤をサポートするタイプのクッションを試してみるのも良いでしょう。自転車に乗る際には、サドルの形状や高さを調整し、会陰部への圧迫を最小限にすることが重要です。

適度な運動とストレッチ

適度な運動は、骨盤周辺の血流を改善し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。ウォーキングや水泳、ヨガなど、体に負担の少ない運動を定期的に行うことをお勧めします。特に、骨盤底筋のストレッチは有効です。

仰向けに寝て膝を立て、ゆっくりと骨盤を上下に動かす運動や、あぐらをかいて前屈する動作などが、骨盤底筋の柔軟性を高めます。

ただし、過度な運動や激しいスポーツは逆効果になることもあるため、自分の体調に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。

ストレス管理と生活習慣

ストレスは自律神経のバランスを乱し、症状を悪化させる要因となります。十分な睡眠を取る、リラクゼーション法を取り入れる、趣味の時間を持つなど、ストレスを上手に管理することが重要です。また、水分摂取も忘れずに行いましょう。

適切な水分摂取は、尿の濃度を薄め、尿路への刺激を減らす効果があります。

ただし、カフェインやアルコール、辛い食べ物などは、膀胱や前立腺を刺激することがあるため、症状が強い時期には控えめにすることをお勧めします。

まとめ:諦めずに専門医に相談を

座ると痛む、下腹部や骨盤周辺に長期間の不快感がある。こうした症状は、慢性前立腺炎・骨盤痛症候群の可能性があります。この病態は、男性の10~15%が経験する高頻度の疾患でありながら、原因が特定されにくく、治療法が確立されていないため、多くの方が長年悩まされています。

しかし、近年の研究により、UPOINTシステムに基づく多様式療法や、カテーテル治療、低強度体外衝撃波療法など、新しい治療選択肢が登場しています。

これらの治療により、従来の方法では改善しなかった症状が軽減する可能性があります。重要なのは、症状を我慢せず、専門医に相談することです。泌尿器科専門医による適切な診断と、個々の病態に合わせた治療により、生活の質を取り戻すことができます。

「もう治らない」と諦める前に、ぜひ一度、専門医の診察を受けてみてください。あなたの症状に合った治療法が見つかるかもしれません。

〈著者情報〉

泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介 

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参考文献

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