インティマレーザーと性交痛の関係性
更年期を迎えた女性の多くが経験する性交痛。その解決策として注目されているのがインティマレーザーです。しかし、治療を受けても思うような効果が得られないケースも少なくありません。
インティマレーザーは、腟や外陰部にレーザーを照射することで血流を改善し、組織を活性化させ、コラーゲン生成を促進する治療法です。性交痛の原因となる腟の乾燥や萎縮に対して効果が期待できるとされています。
私の臨床経験では、多くの患者さんがインティマレーザー治療後に症状の改善を実感されています。しかし、中には「思ったほど効果がない」と感じる方もいらっしゃいます。これには様々な要因が関係しているのです。
効果を感じられない場合、単に「治療が合わなかった」と諦めてしまうのは早計です。実は、インティマレーザーが効かない背景には、見落とされがちな別の原因が隠れていることが少なくありません。
インティマレーザーが効かない主な原因
インティマレーザー治療を受けても性交痛が改善しない場合、以下のような原因が考えられます。これらの要因を理解することで、より効果的な対策を講じることができるでしょう。
GSM(閉経後尿路性器症候群)の重症度
GSM(閉経後尿路性器症候群)は、エストロゲン欠乏に関連する症状群で、膣の乾燥、灼熱感、痒み、性交痛、排尿困難などを特徴とします。閉経後女性の最大50%に影響を与える慢性進行性の症状です。
GSMの重症度によっては、インティマレーザー単独での治療効果に限界があります。特に症状が進行している場合、複合的なアプローチが必要となることが多いのです。
私の診療経験では、GSMが重度に進行している患者さんの場合、インティマレーザー治療の効果が出るまでに時間がかかったり、追加の治療が必要になったりすることがあります。エストロゲン欠乏が長期間続いた結果、組織の萎縮が進行してしまっているためです。
治療回数の不足
インティマレーザーは一度の治療で劇的な効果を期待するものではありません。典型的な治療コースは4~6週間間隔で3回のセッションが基本となります。
研究によれば、インティマレーザー治療後の改善は最大24か月持続することを示す報告がある一方で、12~18か月で症状改善が鈍化するという報告もあります。つまり、効果を維持するためには定期的な治療が必要なのです。
治療回数が不足していると、十分な効果が得られないことがあります。特に重度のGSMの場合、標準的な3回よりも多くのセッションが必要となることもあるでしょう。
乳がん治療の影響
乳がんサバイバーの最大70%がGSMの症状に苦しんでいます。特に内分泌療法(アロマターゼ阻害剤など)を受けている患者さんでは、症状がより重篤になる傾向があります。
乳がん治療後の患者さんは、ホルモン療法が制限されることが多く、GSMの症状管理が難しくなります。インティマレーザー治療は非ホルモン療法として有望ですが、乳がん治療の影響で組織の回復力が低下している場合、効果が出にくいこともあります。
私の診療では、乳がん治療後の患者さんには、より慎重なアプローチが必要です。インティマレーザー治療の効果が出るまでに時間がかかることを事前に説明し、必要に応じて追加の治療オプションを検討します。
見落とされがちな性交痛の原因
インティマレーザー治療が効果を示さない場合、GSM以外の原因で性交痛が生じている可能性があります。これらの原因を見極めることが、適切な治療への第一歩となります。
子宮内膜症や子宮筋腫
子宮内膜症や子宮筋腫は、性交痛の一般的な原因です。これらの疾患がある場合、インティマレーザー治療だけでは症状の改善が難しいことがあります。
子宮内膜症では、子宮内膜様組織が子宮外に発生し、炎症や瘢痕形成を引き起こします。特に深部子宮内膜症が直腸膣中隔や子宮仙骨靭帯に存在する場合、挿入時の深部痛の原因となります。
子宮筋腫も、特に子宮後壁や子宮頸部に発生した場合、性交時の痛みを引き起こすことがあります。これらの疾患は、骨盤内診や超音波検査、MRIなどの画像診断で確認することができます。
骨盤底筋障害
骨盤底筋の過緊張や機能不全も、性交痛の重要な原因です。骨盤底筋は腟の入り口を取り囲む筋肉群で、過度に緊張すると腟の入り口が狭くなり、挿入時の痛みを引き起こします。
この状態は「腟痙攣(バジニスムス)」と呼ばれることもあり、心理的要因や過去の痛みの経験から無意識に筋肉が緊張してしまうことで生じます。
インティマレーザー治療は腟粘膜の状態を改善しますが、骨盤底筋の機能障害に直接作用するものではありません。そのため、骨盤底筋の問題が主な原因である場合、レーザー治療だけでは十分な効果が得られないことがあります。
心理的要因
性交痛には心理的要因も大きく関わっています。不安、恐怖、パートナーとの関係の問題、過去のトラウマなどが、性交痛を引き起こしたり悪化させたりすることがあります。
一度痛みを経験すると、次の性交時に「また痛いのではないか」という不安から筋肉が緊張し、実際に痛みが生じるという悪循環に陥ることもあります。
インティマレーザー治療は物理的な組織の状態を改善しますが、心理的要因に対しては直接的な効果はありません。そのため、心理的要因が強く関与している場合は、心理療法やカウンセリングなどの追加的なアプローチが必要となります。
効果的な複合アプローチ
インティマレーザー治療が単独で十分な効果を示さない場合、複合的なアプローチが必要です。以下に、性交痛に対する総合的な治療戦略をご紹介します。
ホルモン療法との併用
乳がんの既往がない患者さんでは、局所エストロゲン療法とインティマレーザー治療の併用が効果的な場合があります。局所エストロゲンは腟pHを回復させ、上皮を厚くし、コラーゲンの合成を促し、腟分泌物を増加させる効果があります。
2017年のCruzらの研究では、CO2レーザー、局所エストロゲン、および併用療法を比較した結果、併用療法群が最も高い改善を示しました。レーザー群と併用療法群は、膣の乾燥、灼熱感、性交痛において有意な改善を示しましたが、エストロゲン群では乾燥症状のみが改善しました。
ただし、乳がんサバイバーの場合は、エストロゲン療法の使用に慎重な判断が必要です。腫瘍学チームとの連携のもと、個別のリスクとベネフィットを評価することが重要です。
潤滑剤・保湿剤の適切な使用
腟の乾燥による性交痛に対しては、適切な潤滑剤や保湿剤の使用が効果的です。水性潤滑剤は即時的な効果がありますが、持続時間が短いという特徴があります。シリコン系潤滑剤はより長時間の潤滑効果がありますが、シリコン製の性具と併用できないという制限があります。
腟保湿剤は定期的に使用することで、腟の湿潤環境を維持する効果があります。これらの製品は、インティマレーザー治療と併用することで、より快適な性生活をサポートします。
骨盤底理学療法
骨盤底筋の機能障害が性交痛に関与している場合、骨盤底理学療法が効果的です。専門の理学療法士による評価と治療により、過緊張した筋肉をリラックスさせ、弱化した筋肉を強化することができます。
骨盤底理学療法には、バイオフィードバック、筋肉のリラクゼーション技術、腟拡張器を用いた段階的な脱感作療法などが含まれます。これらの技術は、インティマレーザー治療と併用することで、より総合的な症状改善が期待できます。
骨盤底筋のトレーニングは自宅でも継続できるため、専門家の指導のもと、日常的なエクササイズとして取り入れることをお勧めしています。
インティマレーザー治療の最適化
インティマレーザー治療の効果を最大化するためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらを理解し、適切に実施することで、治療成功の可能性を高めることができます。
適切な治療回数と間隔
インティマレーザー治療は、一般的に4~6週間間隔で3回のセッションが基本コースとされています。しかし、症状の重症度や個人の反応によっては、より多くのセッションが必要な場合もあります。
Athanasiouの研究によれば、3回目、4回目、5回目のレーザー治療後、膣の乾燥はそれぞれ36%、66%、86%で解消し、性交痛はそれぞれ27%、58%、81%で解消したと報告されています。つまり、治療回数を増やすことで、より高い効果が期待できるのです。
また、効果の持続期間にも個人差があります。効果が最大24か月持続するという研究がある一方で、12~18か月で症状改善が鈍化するという報告もあります。そのため、定期的な評価と必要に応じた追加治療が重要です。
治療前後のケア
インティマレーザー治療の効果を高めるためには、治療前後の適切なケアも重要です。治療前には、腟内を清潔に保ち、必要に応じて局所保湿剤を使用して組織の状態を整えておくことが推奨されます。
治療後は、24~48時間は性行為を控え、腟内に刺激を与えないようにします。また、治療後の一時的な不快感や分泌物の増加は正常な反応であり、通常は短期間で解消します。
私の診療では、患者さんに治療前後のケアについて詳細に説明し、不安や疑問に答えることで、治療への理解と協力を得るようにしています。適切なケアは、治療効果を最大化し、副作用を最小限に抑えるために不可欠です。
個別化された治療計画
性交痛の原因は複雑で多岐にわたるため、画一的な治療アプローチではなく、個々の患者さんに合わせた治療計画が重要です。詳細な問診と診察により、性交痛の原因を特定し、それに応じた治療戦略を立てることが成功への鍵となります。
例えば、GSMが主な原因である場合はインティマレーザーとホルモン療法の併用、骨盤底筋の問題が関与している場合は理学療法の追加、心理的要因が強い場合はカウンセリングの導入など、多角的なアプローチが効果的です。
私の臨床では、患者さん一人ひとりの症状、病歴、ライフスタイル、希望を考慮した個別化された治療計画を提案しています。また、治療経過に応じて計画を柔軟に調整することも重要です。
まとめ:性交痛改善への総合的アプローチ
インティマレーザーは、性交痛を含むGSMの症状改善に有効な治療法ですが、すべての患者さんに同じように効果があるわけではありません。効果が不十分な場合は、以下のポイントを考慮することが重要です。
まず、性交痛の真の原因を特定することが第一歩です。GSM以外にも、子宮内膜症、子宮筋腫、骨盤底筋障害、心理的要因など、様々な要因が関与している可能性があります。適切な診断のためには、詳細な問診と診察が不可欠です。
次に、原因に応じた複合的なアプローチを検討します。インティマレーザー治療に加えて、局所ホルモン療法(適応がある場合)、潤滑剤・保湿剤の使用、骨盤底理学療法、心理的サポートなど、多角的な治療戦略が効果的です。
また、インティマレーザー治療自体の最適化も重要です。適切な治療回数と間隔、治療前後のケア、個別化された治療計画などが、治療成功の鍵となります。
性交痛は女性のQOLに大きな影響を与える問題ですが、適切な治療によって改善が期待できます。諦めずに専門医に相談し、自分に合った治療法を見つけることが大切です。
私たち医療者も、患者さん一人ひとりの悩みに寄り添い、最新のエビデンスに基づいた治療を提供することで、より多くの女性が健やかな性生活を取り戻せるよう支援していきたいと考えています。
〈著者情報〉
泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介