勃起不全(ED)の現状と治療の課題
勃起不全(ED)は40代前半から始まる男性によく見られる問題で、年齢とともに増加していきます。私が臨床現場で日々実感するのは、EDに悩む患者さんの数が想像以上に多いということです。2001年から2002年にかけての調査では、40歳から88歳の男性の約半数が何らかのEDを経験していると報告されています。
EDの原因は多岐にわたります。血管性、神経性、ホルモン性などの器質的要因、心理的要因、あるいはそれらの混合型などが考えられます。また、骨盤外傷や陰茎骨折、前立腺手術後などにもEDがよく見られるのが特徴です。
従来のED治療の主流は、PDE5阻害薬(バイアグラ®、シアリス®、レビトラ®など)の服用です。これらは性行為前に服用し、一時的に勃起をサポートする薬剤ですが、根本的な解決にはなりません。また、心疾患や脳疾患などの持病がある方は服用できないケースもあります。
このような背景から、薬に頼らない新しい治療法が求められてきました。そこで注目されているのが、体外衝撃波療法(ESWT)です。この治療法は、EDの根本原因にアプローチする可能性を秘めています。
体外衝撃波療法(ESWT)とは何か
体外衝撃波療法(ESWT)とは、低出力の衝撃波を陰茎に直接照射することで、EDの改善を促す治療方法です。この治療法は、もともと1980年代に腎臓結石の破砕術として医療分野で使用され始めました。その後、整形外科領域での応用が進み、現在ではED治療にも活用されています。
衝撃波とは音速を超えて伝わる圧力の波であり、音響インピーダンスが異なる境界で瞬時にエネルギーを放出する特性があります。圧力レベルは100MPaと高く、10~20nsの超短時間に最高に達したのち速やかに陰圧に移行する間欠的な圧力波を呈するため、一般的な超音波(連続波)とは異なり熱を発生しないという特徴があります。
ED治療における衝撃波療法は、特に低強度体外衝撃波療法(Li-ESWT)と呼ばれる方法が用いられます。この治療では、陰茎に低出力の衝撃波を与えることで、陰茎内の血管に働きかけます。具体的には、衝撃波によって陰茎内の血管が振動し、新しい血管を生成する細胞増殖因子(血管内皮細胞増殖因子:VEGF)が放出されます。
この血管内皮細胞増殖因子は血管の増加や成長に関わっており、血管内皮細胞に作用すると細胞分裂などを促進します。結果として陰茎内の既存の血管から新しい血管が枝分かれして形成されていくのです。
衝撃波治療のメカニズムとED改善効果
衝撃波治療がEDを改善するメカニズムは、主に血管新生(新しい血管の形成)を促進することにあります。EDの多くは陰茎への血流不足が原因となっていますが、衝撃波治療はこの根本的な問題にアプローチします。
治療のプロセスは以下のように進みます。まず、陰茎に低出力の衝撃波を与えると、陰茎内の血管が振動します。この振動によって、新しい血管を生成する細胞増殖因子が放出されます。特に重要なのが血管内皮細胞増殖因子(VEGF)で、これが血管内皮細胞に作用して細胞分裂を促進します。
その結果、陰茎内に新しい血管が増え、血液が海綿体に流れ込む量も増加します。これにより、自然な勃起ができるようになるのです。また、血流が増加することで、酸素や栄養素なども効率よく細胞に送り届けられるようになり、根本的な勃起機能の回復が期待できます。
私の臨床経験からも、衝撃波治療を受けた患者さんの多くが、治療後に勃起機能の改善を実感されています。特に軽度から中等度の血管性EDの患者さんでは、効果が顕著に現れることが多いです。
衝撃波治療の臨床的有効性と研究結果
衝撃波治療の臨床的有効性については、多くの研究が行われています。特に注目すべきは、国際勃起機能指数(IIEF-EF)や勃起硬さスケール(EHS)を用いた評価結果です。
複数のシステマティックレビューによると、衝撃波治療を受けた患者は、偽治療(プラセボ)や無治療と比較して、IIEF-EFスコアが統計的に有意に改善することが報告されています。IIEF-EFスコアは、6~10点が重度ED、11~16点が中等度ED、17~21点が軽度から中等度のED、22~25点が軽度ED、26~30点がEDなしと判定されます。
また、勃起硬さスケール(EHS)においても、衝撃波治療を受けた患者は改善が見られます。EHSは0(陰茎が増大しない)から4(陰茎が完全に硬くなる)までの5段階で評価されますが、治療後にEHSスコアが3以上に改善する患者の割合が有意に増加することが示されています。
特筆すべきは、PDE5阻害薬に反応しなかった患者でも、衝撃波治療後に改善が見られるケースがあることです。これは、薬物療法では効果が得られなかった患者にとって、新たな希望となる可能性があります。
治療の安全性についても、複数の研究で確認されています。治療関連の有害事象はほとんど報告されておらず、治療中止例もありません。アジア太平洋性医学会や欧州性医学会のガイドラインでも、衝撃波治療は安全で忍容性の高い処置であると述べられています。
衝撃波治療機器の進化と特徴
ED治療のための衝撃波治療機器は、この10年ほどで大きく進化してきました。代表的な機器としては、イスラエルのダイレックス社が開発した「レノーヴァ」や「モアノヴァ」、そして「ED1000」などがあります。
「レノーヴァ」は、世界70カ国以上で使用され、10万人以上の治療実績を持つ機器です。この機器の特徴は、衝撃波を線状に照射する方式を採用していることで、一度に広範囲の治療が可能になっています。照射範囲は70mmと広く、1回の治療で3,600発の衝撃波を照射できます。
一方、「ED1000」は点状照射方式を採用しており、照射範囲は13mmと狭いですが、より集中的な治療が可能です。治療プロトコルも異なり、「レノーヴァ」は週1回×4週間の計4回、「ED1000」は週2回×3週間の計6回、その後1ヶ月休憩して再度週2回×3週間の計6回という治療スケジュールが一般的です。
衝撃波治療機器の選択は、患者さんの症状や治療目標によって異なります。私の臨床経験では、「レノーヴァ」は治療時間が短く、患者さんの負担が少ないという利点があります。また、線状照射方式により広範囲に均一な治療効果が期待できます。
衝撃波治療のプロトコルと治療回数
衝撃波治療のプロトコルは、使用する機器や患者の状態によって異なりますが、一般的なプロトコルをご紹介します。「レノーヴァ」を使用した場合、基本的には週1回の治療を4週間連続で行います。1回の治療時間は約20分と短く、日常生活への影響を最小限に抑えられるのが特徴です。
治療中の痛みについては、ほとんどの患者さんが「ほぼ痛みを感じない」と報告しています。これは、低出力の衝撃波を使用しているためです。また、治療中や治療期間中でも普段通りの性生活を送ることができ、必要に応じてED治療薬と併用することも可能です。
効果の実感には個人差がありますが、多くの患者さんは4回の治療サイクル(1クール)を完了した頃から効果を実感し始めます。2023年の調査では、1クール(4回施術)を継続して治療した患者さんの割合は93.9%と高く、また患者満足度も86.7%と非常に高い結果が報告されています。
衝撃波治療に適した患者像
衝撃波治療は、すべてのED患者に適しているわけではありません。特に効果が期待できるのは以下のような方々です。
- ・EDを根本的に改善したい方
- ・ED治療薬で勃起効果が実感できない方
- ・ED治療薬の副作用がひどい方・心配な方
- ・心疾患・脳疾患などの持病のためED治療薬を服用できない方
特に軽度から中等度の血管性EDの患者さんでは、衝撃波治療の効果が高いことが研究で示されています。また、PDE5阻害薬に反応しなかった患者さんでも、衝撃波治療後に改善が見られるケースがあります。
一方で、重度のEDや神経性・ホルモン性のEDでは、効果が限定的な場合もあります。また、前立腺全摘除術後のEDなど、特定の原因によるEDでは、効果の個人差が大きいことが報告されています。
衝撃波治療と従来のED治療法の比較
衝撃波治療と従来のED治療法(主にPDE5阻害薬)を比較すると、それぞれに特徴があります。まず、作用機序が根本的に異なります。PDE5阻害薬は性行為前に服用し、一時的に勃起をサポートする薬剤ですが、衝撃波治療は陰茎内に新しい血管を形成することで、根本的な改善を目指します。
効果の持続性も大きく異なります。PDE5阻害薬の効果は服用後数時間から長くても数日ですが、衝撃波治療の効果は治療完了後も長期間持続する可能性があります。ただし、現時点では12ヶ月以降の長期的な有効性に関するデータは限られています。
副作用の面では、PDE5阻害薬は頭痛、顔面潮紅、めまいなどの副作用を引き起こす可能性があり、まれに重篤な心血管疾患のリスクもあります。一方、衝撃波治療は副作用がほとんど報告されておらず、安全性が高いと考えられています。
費用対効果の観点では、衝撃波治療は初期投資が大きいものの、長期的な効果が期待できるため、継続的にPDE5阻害薬を服用する場合と比較すると、最終的なコストパフォーマンスは良好かもしれません。
衝撃波治療の国際的ガイドラインと推奨事項
衝撃波治療に関する国際的なガイドラインは、現時点では見解が分かれています。欧州泌尿器科学会(2024年)のガイドラインでは、特定のED患者、特に軽度の血管性ED患者や、PDE5阻害剤に反応しない血管性ED患者に対する代替療法として、低強度衝撃波治療(Li-SWT)の使用を推奨しています。
同様に、アジア太平洋性医学会(2021年)のガイドラインでも、PDE5阻害剤に反応したか反応しなかった軽度から中等度の血管性EDの男性に対して、衝撃波治療の臨床採用を推奨しています。ただし、治療は衝撃波治療の経験が文書化された高度に専門化されたセンターで実施すべきであるとしています。
一方、カナダ泌尿器科学会(2021年)のガイドラインでは、ED患者に対する低強度衝撃波治療の使用を推奨していません。また、欧州性医学会(2019年)のガイドラインでは、現在のエビデンスが依然として議論の的となっており、より質の高い研究が必要であるため、明確な推奨を示していません。
これらのガイドラインの違いは、主に研究の質と量、そして長期的な有効性に関するデータの不足に起因しています。今後、より多くの高品質な研究が行われることで、ガイドラインの統一が進む可能性があります。
衝撃波治療の実際と患者体験
衝撃波治療の実際の流れについて、患者さんの体験をもとにご説明します。まず、初診時には詳細な問診と診察を行い、EDの原因や重症度を評価します。その後、治療計画を立て、患者さんの同意を得た上で治療を開始します。
治療当日は、まず陰茎に専用のジェルを塗布し、衝撃波治療器の照射ヘッドを当てていきます。「レノーヴァ」の場合、陰茎の各部位に約900発ずつ、合計3,600発の衝撃波を照射します。治療時間は約20分と短く、ほとんどの患者さんは痛みをほとんど感じません。
治療後は特別な処置は必要なく、すぐに日常生活に戻ることができます。また、治療当日から性行為も可能です。必要に応じて、PDE5阻害薬との併用も検討します。
治療効果の実感には個人差がありますが、多くの患者さんは4回の治療(1クール)を完了した頃から効果を実感し始めます。患者さんからは「自然な勃起が増えた」「勃起の硬さが改善した」「自信が戻った」といった声が聞かれます。
ただし、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。効果が限定的な場合は、追加の治療オプションを検討することもあります。
衝撃波治療の今後の展望と課題
衝撃波治療は比較的新しい治療法であり、今後さらなる発展が期待されています。現在の課題としては、長期的な有効性に関するデータが限られていることが挙げられます。多くの研究の追跡期間は1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月であり、12ヶ月以降のデータは少ないのが現状です。
また、どの患者群が衝撃波治療に最も適しているかを特定するためのデータも不十分です。今後の研究では、患者の特性(年齢、EDの重症度、原因など)と治療効果の関連をより詳細に調査する必要があります。
治療プロトコルの最適化も重要な課題です。現在、衝撃波のエネルギー密度、周波数、治療回数、間隔などが統一されておらず、どのプロトコルが最も効果的かはまだ明確になっていません。
さらに、他の治療法との併用効果についても研究が進められています。特にPDE5阻害薬との併用や、多血小板血漿(PRP)療法との併用は、相乗効果が期待されています。
これらの課題を解決するためには、より多くの高品質な研究が必要です。特に長期的な追跡調査や、大規模な無作為化比較試験が求められています。
まとめ:EDに対する衝撃波治療の位置づけと選択のポイント
衝撃波治療は、EDの根本原因にアプローチする新しい治療法として注目されています。特に血管性EDに対しては、新しい血管の形成を促進することで、自然な勃起機能の回復を目指します。
この治療法の最大の特徴は、薬に頼らずに根本的な改善を目指せることです。PDE5阻害薬が効かない患者さんや、副作用が気になる方、持病のために薬を服用できない方にとって、新たな選択肢となります。
臨床研究では、国際勃起機能指数(IIEF-EF)や勃起硬さスケール(EHS)の改善が報告されており、特に軽度から中等度の血管性EDの患者さんでは効果が期待できます。また、安全性も高く、副作用はほとんど報告されていません。
ただし、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではなく、重度のEDや神経性・ホルモン性のEDでは効果が限定的な場合もあります。また、長期的な有効性に関するデータはまだ限られています。
衝撃波治療を検討する際は、専門医との十分な相談が重要です。自分のEDの原因や重症度、他の治療法との比較、費用対効果などを総合的に判断し、最適な治療法を選択しましょう。
ED治療の目標は、単に勃起機能を改善するだけでなく、患者さんの生活の質を向上させ、自信を取り戻すことにあります。衝撃波治療は、その目標達成のための有望な選択肢の一つとして、今後さらなる発展が期待されています。
〈著者情報〉
泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介