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夜間排尿が転倒や骨折リスクに及ぼす影響|転倒を防ぐ7つの対策と専門医の見解

local_offer夜間頻尿

夜中にトイレで目が覚める。この経験は、多くの方が日常的に感じている悩みではないでしょうか。

実は、夜間の排尿回数が増えることは、単なる不便さだけでなく、転倒や骨折といった深刻なリスクにつながる可能性があります。特に高齢になるほど、その危険性は高まります。

泌尿器科の診療現場では、「夜中に何度もトイレに起きて困ります」という相談が多く寄せられます。夜間頻尿は、睡眠の質を低下させるだけでなく、暗い中での移動によって転倒リスクを高め、結果として骨折や長期の療養につながることがあるのです。

本記事では、夜間排尿が転倒や骨折リスクに及ぼす影響について、泌尿器科専門医の視点から詳しく解説します。夜間頻尿の実態と原因、そして今日から実践できる7つの具体的な対策まで、安心して取り組める情報をお届けします。

夜間頻尿とは何か?その定義と実態

夜間頻尿は、医学的には「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴」と定義されています。

ただし、夜間に1回起きることは健常者でもありうることです。そのため、臨床上問題となるのは、夜間2回以上起きることと考えられています。実際、夜間2回以上の排尿があると、転倒や骨折のリスクが上がることが報告されています。

年齢とともに増加する夜間頻尿

夜間頻尿は、加齢とともに男女ともに増加することが知られています。

本邦の調査によると、40代では男性の約10%、女性の約8%が夜間2回以上の排尿を経験しています。しかし、70代になると男性の約62%、女性の約48%に増加し、80歳以上では男性の約84%、女性の約71%が夜間2回以上トイレに起きているという実態があります。

このように、高齢になるほど夜間頻尿の頻度が高くなります。夜間の排尿回数が多くなれば、生活の質が低下することはもちろんですが、高齢者が夜間に一人でトイレに歩いていくという行動自体が、転倒や階段から落下したりして骨折のリスクとなるため、できる限り夜間排尿回数を少なくするよう治療することが必要です。

夜間頻尿が生活に及ぼす影響

夜間頻尿は、昼間頻尿や尿失禁、尿勢低下、残尿感などの下部尿路症状のなかで最も頻度が高く、また睡眠を阻害するため支障度も高い症状といわれています。

夜間に何度も目が覚めることで、日中の疲労感や倦怠感、活動性や集中力の低下につながり、生活の質を大きく損ないます。そのため、夜間頻尿は、認知機能障害やうつ病といった症状とも関連が指摘されています。

また、夜間頻尿と不眠は互いに関係し悪循環を引き起こすことが知られています。夜間に尿意を感じ目が覚める場合と、逆に夜間に目が覚めると尿意を感じる場合もあります。

夜間排尿が転倒・骨折リスクを高める理由

夜間にトイレに起きることは、転倒や骨折のリスクと隣り合わせです。

仙台市の調査では、70歳以上の約800人を5年間追跡したところ、夜間トイレに2回以上行く人が骨折して入院した割合は、1回以下の人の2倍に上ったという報告があります。

暗闇での移動が招く危険

夜間の転倒リスクが高い理由は、いくつかあります。

まず、暗い環境での移動は視界が悪く、障害物を認識しにくくなります。また、睡眠中に起きた直後は、意識がはっきりしておらず、判断力や反応速度が低下しています。さらに、高齢になると筋力やバランス感覚が低下しているため、わずかな段差やじゅうたんの端でもつまずきやすくなります。

寝室からトイレへの動線に、電源コードや小さな段差などの障害物があると、転倒のリスクはさらに高まります。

転倒による骨折が引き起こす深刻な影響

高齢者にとって転倒は、骨折や脳内出血、頭部挫傷など重大な外傷につながる恐れがあります。

転倒により長期安静状態になると、著しくADL(日常生活動作)が低下する恐れがあります。著しくADLが低下してしまうと、もとの身体能力に戻らないことがあるため、転倒を発生させないことが重要です。

厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によると、高齢者が介護を必要になってしまう原因は、骨折・転倒が13.9%を占めており3番目に多くなっています。

また、2回以上の夜間頻尿があると転倒や骨折のリスクが高くなり、死亡率が増加することが報告されており、注意が必要な症状でもあります。

夜間頻尿の主な原因とメカニズム

夜間頻尿の原因は、様々ありますが、主に3つに分類されます。

それは、

(1)夜間多尿

(2)膀胱蓄尿障害

(3)睡眠障害

です。

実際の夜間頻尿の患者さんは、これらの原因を2つ以上あわせ持っていることが多いです。

夜間多尿:最も多い原因

夜間多尿は、夜間頻尿の原因の約8割を占めており、最も多い原因といわれています。

夜間多尿には、24時間尿量が多い多尿と、夜間のみ尿量が多い夜間多尿があります。65歳を超える方では、24時間の尿量のうち夜間の尿量が33%を超える場合、若い成人の方では20%を超える場合に夜間多尿と判断されます。

夜間多尿の原因には、以下のようなものがあります。

水分過剰摂取

夜間頻尿の80%の方は水分を過剰に摂取しています。水分摂取量が多ければ当然のことながら尿量が増えて排尿回数が増加します。

抗利尿ホルモンの分泌低下

抗利尿ホルモンは夜間に多く分泌されることで夜間尿量を減少させているため、加齢に伴い夜間の抗利尿ホルモン分泌が減少すると、夜間尿量が増えてしまいます。

心血管の問題

心不全や加齢による心機能低下は日中立っている間に下半身に水分を貯留し浮腫につながってしまいます。そのため、夜横になると下半身の水分が血管に戻って血液量が増えるため心臓に負担がかかり、心臓から利尿ホルモンが出て尿量が増加します。

薬やお酒の影響

一部の薬剤が多尿を引き起こすことがあるため、気になる場合は医師に相談することが大切です。またアルコールは抗利尿ホルモンの分泌を抑えてしまうため、多尿につながる場合があります。

膀胱蓄尿障害:尿を溜められない状態

膀胱蓄尿障害は、膀胱容量自体が低下したり、尿を出し切れなくなったりすることで尿を十分に溜められなくなる障害です。

代表的なものとして、過活動膀胱があります。これは膀胱が過敏になって、十分に尿が溜まっていなくても膀胱が収縮してしまう状態です。夜間に2回以上トイレに行く患者の31%が過活動膀胱とされています。

また、男性の場合は前立腺肥大症も原因となります。前立腺が大きくなるなどにより膀胱出口部を閉塞してしまい、様々な尿トラブルを引き起こす病気です。

睡眠障害:眠りの質の問題

睡眠障害で眠りが浅く、軽い尿意でトイレに起きてしまうケースもあります。

これは尿がしたくて目が覚めるのではなく、睡眠障害のために頻回に目が覚めてしまい、目覚めると尿にいきたい感じがしてトイレに行くという状態です。よく眠れた日には排尿のために起きることがないという患者さんは、睡眠障害による夜間頻尿であることがほとんどです。

高齢になると深い睡眠が減り中途覚醒が多くなりますが、中途覚醒は膀胱容量の低下を招き、夜間頻尿につながります。

転倒を防ぐ7つの具体的な対策

夜間頻尿による転倒リスクを減らすためには、排尿回数を減らす対策と、転倒しにくい環境を整える対策の両方が重要です。

ここでは、今日から実践できる7つの具体的な対策をご紹介します。

対策1:水分摂取のタイミングと量を見直す

夕食以降、夜寝るまでの水分や、特にカフェインやアルコールの摂取は控えめにしましょう。

過度の飲水により夜間の排尿回数が増えることがあります。「脳梗塞や心筋梗塞予防のため、血をサラサラにするため、水分をたくさん摂取しなさい」とかかりつけ医や家族から言われ、夕食後や寝る前に水分を過剰に摂取している患者さんをよく見かけます。これは夜間多尿の大きな原因となります。

ちなみに2リットル以上の飲水を1週間以上継続して血液粘調度を調べた報告がありますが、血液粘調度に変化はないとの結果でした。すなわち多量に飲水を摂取しても血液はサラサラにならないということです。

水分制限の量や時間帯などについては、必要に応じて、かかりつけ医に相談してください。

対策2:塩分を控える

お味噌汁やおかず、おつけもの、スナック菓子などの塩分は要注意です。

塩分を摂り過ぎると、尿量が増えたり、のどが渇いて水分の摂り過ぎにつながります。実際に、塩分摂取が多いグループ(平均11.4g/日)と少ないグループ(平均7.3g/日)で排尿回数や尿量を調べたところ、塩分摂取が多いグループのほうが夜間排尿回数や夜間尿量が多かったという報告もあります。

対策3:脚のむくみ対策として短めの昼寝をする

脚がむくんでいると、夜中に横になったときに水分が血管内に移動し、腎臓から余分な水分を出そうとして尿が作られます。

昼間のうちに脚の下にクッションなどをあてて、脚を上げて昼寝をすると、日中のうちに水分の排出を促すことができます。ただし、昼寝をし過ぎて夜眠れなくならないように注意しましょう。

むくみに対しては、弾性ストッキングの使用もおすすめです。

対策4:夕方に軽い散歩をする

夕方の軽い散歩は脚のむくみを解消して、夜間の尿量を減らしたり、ストレス解消になって安眠につながります。

散歩、ダンベル運動、スクワットなどを行うと、筋肉のポンプ作用で下半身にたまった水分を血管内に戻し、汗や尿として排泄されます。

対策5:寝室の温度と湿度を調整する

冬は室温の冷え対策、乾燥によるのどの渇き対策も大切です。

寒い環境では、体温を保つために血管が収縮し、血圧が上昇します。これにより腎臓への血流が増え、尿量が増加する傾向があります。また、乾燥した環境では、のどが渇いて水分を多く摂取してしまうこともあります。

対策6:寝室からトイレへの動線を安全にする

寝室からトイレへの動線の安全を確保することが重要です。

具体的には、以下のような対策が有効です。

手すりの設置:廊下や階段に手すりを設置することで、転倒のリスクを減らせます。

照明の設置:近づくと点灯するセンサー式足元灯が有効です。

床の段差を改善する:じゅうたんなど小さな段差もつまずく原因となります。

障害物の除去:寝室とトイレの間に電源コードなどの障害物がないか確認しましょう。

これらの対策により、夜間のトイレ移動時の転倒リスクを大幅に減らすことができます。

対策7:排尿日誌をつけて原因を特定する

原因を探るのに有効なのが「排尿日誌」です。

ペットボトルの飲み口を切り取り、計量カップを使って、目盛りを付けた容器を用意し、排尿時刻や量を3日間程度記録します。夜間の尿量が多いと夜間多尿が疑われるなど原因の特定につながります。

排尿日誌は日本排尿機能学会のホームページから無料でダウンロードできます。

専門医による治療アプローチ

生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合、専門医による治療が必要になることがあります。

夜間多尿に対する治療

夜間多尿が原因の場合には、夜間の飲水量の見直しやアルコール・カフェイン摂取の中止、塩分制限、ウォーキングなどの運動療法が推奨されています。

効果が乏しい男性においては、昨今使用できるようになったホルモン製剤の使用も考慮します。これは抗利尿ホルモンを補充する治療で、夜間の尿量を減らす効果があります。

膀胱蓄尿障害に対する治療

膀胱蓄尿障害に対しては、悪性腫瘍の合併が無いかの確認をおこないます。

前立腺肥大症や過活動膀胱が原因となっている場合には、それぞれの薬物治療を検討します。市販の健康食品やサプリメント類は効果に一貫性があるものがなく、現時点で推奨されるものはありません。

睡眠障害に対する治療

睡眠障害のある方は生活習慣の改善をおこなったうえで、効果が乏しい場合には睡眠薬の使用も検討されます。

高齢の方では薬剤の相互作用や副作用に注意して、決められた容量を守って服用することが大切です。

夜間頻尿には、泌尿器科だけでなく内科的な疾患も要因となっている可能性があります。症状の強い方はかかりつけの先生に相談するか、泌尿器科への受診をご検討ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 夜間に何回トイレに起きると問題ですか?

A. 医学的には夜間1回以上が夜間頻尿の定義とされていますが、実際に臨床上問題となるのは夜間2回以上です。夜間に1回起きることは健常者でもありうることですが、夜間2回以上の排尿があると、睡眠の質が大きく低下し、転倒や骨折のリスクが上がることが報告されています。仙台市の調査では、70歳以上で夜間トイレに2回以上行く人が骨折して入院した割合は、1回以下の人の2倍に上ったという結果が出ています。夜間2回以上トイレに起きる状態が続いている場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。

Q2. 水分は1日どのくらい摂取すればよいですか?

A. 食事以外の水分摂取は1~1.5リットルが適量とされています。体重あたり20ml(体重60kgの方は1200ml)を目安にすると良いでしょう。実際に、夜間頻尿の80%の方は水分を過剰に摂取しているという報告があります。「血液をサラサラにするため」と過剰に水分を摂取している方をよく見かけますが、2リットル以上の飲水を継続しても血液粘調度に変化はないという研究結果があります。特に夕食以降、夜寝るまでの水分摂取は控えめにしましょう。カフェインやアルコールは利尿作用があるため、夜間は避けることが重要です。水分制限の具体的な量については、必要に応じてかかりつけ医に相談してください。

Q3. 夜間頻尿は完治しますか?

A. 夜間頻尿の完治は難しいことが多いですが、適切な対策をとれば3~4回を1~2回に減らすことは十分可能です。まずは排尿日誌をつけて原因を特定し、それに応じた対策を講じることが肝要です。夜間多尿が原因の場合は、夕方以降の水分摂取を控える、塩分を制限する、夕方に軽い散歩をするなどの生活習慣の改善で大きな効果が期待できます。膀胱蓄尿障害や睡眠障害が原因の場合は、薬物治療も有効です。生活習慣の改善と適切な治療により、症状を大幅に改善できる可能性がありますので、諦めずに泌尿器科を受診して相談してみることをお勧めします。

Q4. 転倒を防ぐために最も効果的な対策は何ですか?

A. 転倒を防ぐには、環境整備と夜間頻尿そのものの改善を組み合わせることが最も効果的です。寝室からトイレへの動線に手すりを設置し、近づくと点灯するセンサー式足元灯を配置することで安全性が向上します。床の段差を改善し、電源コードなどの障害物を除去することも重要です。環境整備に加えて、夕食以降の水分やカフェイン、アルコールの摂取を控える、塩分を控える、夕方に軽い散歩をするなどの生活習慣の見直しで、夜間の排尿回数を減らすことができます。トイレに行く回数が減れば、それだけ転倒のリスクも減少します。

Q5. どのような症状があれば泌尿器科を受診すべきですか?

A. 夜間2回以上トイレに起きる状態が続いている場合は、泌尿器科への受診をお勧めします。特に、転倒の不安がある方や、すでに一度転びそうになった経験がある方は早めに相談することが大切です。また、日中も頻繁にトイレに行く(1日8回以上)、急に強い尿意を感じてトイレに駆け込む、尿が出にくい、排尿後に尿が残っている感覚があるなどの症状がある場合も受診が必要です。いびきをかく、日中眠気が強い、起床時に頭痛がするなどの症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群が原因の可能性もあります。夜間頻尿は適切な対応により改善が期待できますので、気になる症状がある方はぜひ一度泌尿器科を受診してください。

まとめ:夜間頻尿と転倒リスクへの総合的なアプローチ

夜間頻尿は、単なる不便さだけでなく、転倒や骨折といった深刻なリスクにつながる可能性があります。

特に高齢者では、夜間2回以上の排尿がある場合、転倒や骨折のリスクが大幅に高まることが報告されています。夜間の暗い環境での移動は、視界が悪く、意識もはっきりしていないため、わずかな段差でも転倒につながりやすいのです。

夜間頻尿の原因は、夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3つに大きく分けられます。最も多い原因は夜間多尿で、水分過剰摂取、抗利尿ホルモンの分泌低下、心血管の問題などが関与しています。

転倒を防ぐためには、排尿回数を減らす対策と、転倒しにくい環境を整える対策の両方が重要です。水分摂取のタイミングと量の見直し、塩分制限、脚のむくみ対策、夕方の軽い散歩、寝室の温度と湿度の調整、寝室からトイレへの動線の安全確保、そして排尿日誌をつけて原因を特定することが効果的です。

生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合は、専門医による治療が必要になることがあります。夜間頻尿には、泌尿器科だけでなく内科的な疾患も要因となっている可能性がありますので、症状が強い方は一度当院にいらしてください。

引用論文

https://pmc.carenet.com/?pmid=31347956

 

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