レジウム日帰り手術とは何か
前立腺肥大症は、加齢とともに多くの男性が経験する疾患です。
60歳で約50%、85歳では90%の男性に何らかの症状が現れるとされており、排尿に関する悩みは決して珍しいものではありません。従来の手術療法では入院期間が長く、体への負担も大きいことが課題でしたが、近年登場した「レジウム(Rezūm)日帰り手術」は、これらの問題を大きく改善する画期的な治療法として注目を集めています。
レジウム治療は、正式には「経尿道的水蒸気治療(WAVE治療)」と呼ばれ、103℃の高温水蒸気を利用して肥大した前立腺組織を壊死させる低侵襲手術です。2021年10月に日本で厚生労働省の承認を取得し、2022年から健康保険が適用されるようになりました。欧米では既に5年以上の実績があり、その安全性と有効性が確認されています。
本記事では、泌尿器科専門医として長年前立腺疾患の治療に携わってきた経験から、レジウム日帰り手術の仕組み、治療の流れ、安全性、そして従来の手術法との違いについて詳しく解説します。

目次
レジウム治療の仕組み
レジウム治療の最大の特徴は、水蒸気という自然なエネルギーを使用する点です。
治療では、デリバリーデバイスと呼ばれる細い管状の装置を尿道から前立腺まで挿入し、エミッター針という特殊な針を前立腺組織に穿刺します。この針の先端から103℃に加熱された水蒸気を9秒間放出することで、前立腺組織を約70℃まで上昇させ、細胞を壊死させます。
熱がムラなく奥まで届く方式
従来の温熱療法では、熱源に近い細胞と遠い細胞で加熱温度に差が生じ、不均一な治療効果となる問題がありました。
一方、レジウム治療では水蒸気が前立腺組織の間質を介して対流的に供給されるため、熱エネルギーが迅速かつ均一に分散します。水蒸気は放出された領域から外には出ないため、尿道粘膜や前立腺被膜への熱伝導を最小限に抑えることができます。この特性により、周囲組織への影響を抑えながら、治療対象部分のみを効率的に壊死させることが可能です。
治療後の組織変化
壊死した前立腺組織は、術後1~3か月の期間をかけて体内の血管やリンパ管から自然に吸収されていきます。
前立腺が退縮することで、肥大によって圧迫されていた尿道が広がり、排尿障害の症状が改善します。治療に使用される水の量はわずか0.42mlと極めて少量であり、体への負担も最小限です。細胞膜を直接変性させることで即座に細胞死を引き起こすため、確実な治療効果が期待できます。
レジウム日帰り手術の具体的な流れ
レジウム治療は、日帰りで実施可能な低侵襲手術です。
手術当日の流れを時系列で説明します。まず朝に来院し、体温測定や血圧測定などのバイタルチェックを行います。血圧の異常高値や37.5℃以上の発熱がある場合は、患者様の安全を考慮して手術が中止になることもあります。
術前準備と麻酔
バイタルチェックで問題がなければ、術前処置に進みます。
多くの施設では全身麻酔、腰椎麻酔または仙骨硬膜外麻酔を使用し、下半身の感覚をブロックします。一部の施設では静脈麻酔を併用することもあります。当院では、前立腺ブロック麻酔と笑気ガス麻酔の組み合わせにより、体の負担が少なく安全に行える麻酔方法を確立しています。欧米6か所にわたる各施設でのディスカッションを重ね、低侵襲手術に最適な麻酔を検討しています。これらにより痛みを感じることが少なく治療を受けることができ、患者様の負担を大幅に軽減します。麻酔後は20分前後の安静時間を設け、麻酔が十分に効いていることを確認してから手術に入ります。
手術の実施
手術時間は3~5分程度と非常に短時間です。
内視鏡で前立腺の状態を確認しながら、デリバリーデバイスを外尿道口から挿入し、前立腺の最奥部まで到達させます。前立腺の大きさに応じて、ニードルを穿刺する回数を調整します。一般的には前立腺の大きさや形状によって4回程度の水蒸気放出を行いますが、当院では、MRI等による施術位置のプランニングを精密も行い本人の前立腺の形に合わせ10数か所合わせの施術を行い、前立腺が効率的に縮小する方法を確立しています。また、膀胱へ飛び出した中葉肥大がある場合でも、uMISTメソッドで対応可能です。
術後の経過観察
手術終了後は、尿道カテーテルを留置する場合と留置しない場合があります。
カテーテル留置の有無は術式や術中所見により医師が個別に判断しますが、多くの場合は7日間の留置が推奨されます。カテーテルを留置した場合でも、カテーテルプラグを使用することで、翌日から袋を下げて帰宅する必要はほとんどありません。術後10分程度の休息後、問題がなければすぐに帰宅できます。
レジウム治療の安全性とリスク
どのような手術にも合併症のリスクは存在します。
しかし、レジウム治療は従来の前立腺肥大症手術と比較して、合併症の発生率が低く、安全性の高い治療法として評価されています。報告されている主な合併症とその発生率について、情報をお伝えします。
一般的な合併症とその頻度
最も頻度が高い合併症は血尿で、発生率は約12.5%です。
多くの場合は軽度であり、数日以内に自然に改善します。血精液症は約7.4%、排尿困難は16.9%、頻尿は5.9%の頻度で報告されています。細菌感染症は3.7%、尿閉は4.4%、精液量減少は3.7%と、いずれも比較的低い発生率です。これらの合併症は一時的なものが多く、適切な対処により改善することがほとんどです。
性機能への影響
前立腺肥大症の手術において、多くの患者様が懸念されるのが性機能への影響です。
従来の手術法であるTURPやHoLEPでは、逆行性射精が70~80%の高頻度で発生します。一方、レジウム治療では逆行性射精の発生率は約2%と非常に低く抑えられています。勃起機能についても、前立腺組織を切除しないため、神経や血管への影響が最小限であり、機能温存が期待できます。性生活が盛んな方や性機能の温存を強く希望される方にとって、レジウム治療は有力な選択肢となります。
抗凝固薬・抗血小板薬使用中の患者様への対応
レジウム治療の大きな利点の一つは、出血量が少ないことです。
従来の手術では、抗凝固薬や抗血小板薬を内服している患者様は、一定期間の休薬が必要でしたが、レジウム治療では休薬せずに治療を受けられる可能性があります。心疾患や脳血管疾患で血液サラサラの薬を服用している方でも、主治医と相談の上、安全に治療を実施できるケースが多くあります。ただし、個々の患者様の状態により判断が異なるため、必ず事前に医師にご相談ください。
これまでの手術法との比較
前立腺肥大症の手術には、レジウム以外にも複数の選択肢があります。
それぞれの手術法には特徴があり、患者様の前立腺の大きさ、全身状態、希望される治療効果などによって最適な方法が異なります。ここでは主要な手術法との違いを詳しく解説します。
TURP(経尿道的前立腺切除術)との比較
TURPは古くから行われている標準的な手術法です。
内視鏡先端のループ状電気メスで肥大した前立腺を少しずつ削り取る方法で、確実な治療効果が得られます。しかし、手術時間は30~60分程度と長く、出血量も比較的多いため、入院期間は5~10日程度必要です。レジウム治療は手術時間が5~10分と短く、出血量も少ないため、日帰りまたは1泊2日での治療が可能です。
HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)との比較
HoLEPはホルミウムレーザーを使用し、肥大した前立腺を被膜から剥離して摘出する手術です。
TURPよりも出血量が少なく、大きな前立腺にも対応できる優れた手術法ですが、手術時間は60~120分と長く、高度な技術が必要です。残存する前立腺組織が少ないため再発率は低いものの、逆行性射精はほぼ必発です。レジウム治療は手術時間が圧倒的に短く、性機能への影響も少ないですが、治療効果が現れるまでに1~3か月かかる点が異なります。
UroLift(尿道吊り上げ術)との比較
UroLiftは、特殊な糸で肥大した前立腺を機械的に吊り上げて尿道を開く方法です。
レジウムと同様に低侵襲で性機能への影響が少ない治療法ですが、前立腺の大きさが30~80mL程度の比較的小さな肥大にのみ適応されます。また、前立腺の形状によっては治療できないケースもあります。レジウム治療も同程度の大きさの前立腺が対象ですが、中葉肥大など複雑な形状にも対応できる柔軟性があります。
レジウムが適している人は?治療の適応と対象患者
レジウム治療は、すべての前立腺肥大症患者様に適応されるわけではありません。
日本泌尿器科学会などの関連学会が策定した指針では、以下のような患者様が対象と定められています。まず、全身状態が不良で合併症リスクが高い症例が挙げられます。心疾患や呼吸器疾患などの合併症があり、長時間の手術や全身麻酔が困難な方にとって、短時間で終了するレジウム治療は有力な選択肢です。
高齢者や認知機能障害のある方への適応
高齢もしくは認知機能障害のため、術後せん妄や身体機能低下のリスクが高い症例も適応対象です。
従来の手術では入院期間が長くなることで、せん妄や筋力低下のリスクが高まりますが、レジウム治療は日帰りまたは1泊2日で済むため、これらのリスクを大幅に軽減できます。また、前立腺の大きさは30~80mL程度が目安とされており、巨大な前立腺肥大には他の手術法が推奨されます。
性機能温存を希望される方
性生活が盛んで性機能の温存を強く希望される方にも、レジウム治療は適しています。
逆行性射精の発生率が約2%と低く、勃起機能への影響も最小限であるため、QOL(生活の質)を重視される方に推奨できる治療法です。ただし、前立腺の形状や大きさ、症状の重症度によっては他の治療法が適している場合もあるため、泌尿器科専門医との十分な相談が必要です。
レジウム治療の効果と持続性
レジウム治療の効果は、どの程度持続するのでしょうか。
欧米での臨床研究によると、治療後5年経過した時点でも排尿状況の改善が持続していることが確認されています。国際前立腺症状スコア(IPSS)や尿流量測定の数値において、長期間の有効性が報告されており、5年間での再手術率は4.4%と低い水準です。特に注目すべきは、3年目以降は新たに手術が必要になった患者様がいないという報告があり、治療効果の安定性が示されています。
治療効果が現れるまでの期間
レジウム治療の特徴として、効果が現れるまでに時間がかかる点があります。
壊死した前立腺組織が体内に吸収されるまでに1~3か月かかるため、即効性を求める方には向かない場合があります。TURPやHoLEPでは術直後から尿の勢いの改善を実感できますが、レジウム治療では徐々に症状が改善していきます。この期間中は、一時的に症状が悪化することもあるため、医師の指示に従った経過観察が重要です。
再発率と追加治療
前立腺肥大症は進行性の疾患であり、治療後も前立腺が再び肥大する可能性があります。
しかし、レジウム治療では5年間の再手術率が4.4%と低く、多くの患者様で長期的な効果が維持されています。万が一再発した場合でも、レジウム治療は繰り返し実施可能であり、他の手術法への変更も可能です。定期的な経過観察を継続することで、早期に再発を発見し、適切な対応を取ることができます。
まとめ:レジウム日帰り手術のこれから
レジウム日帰り手術は、前立腺肥大症治療における画期的な選択肢です。
103℃の水蒸気を利用した低侵襲治療により、手術時間は5~10分と短く、出血量も少ないため、日帰りまたは1泊2日での治療が可能です。性機能への影響が少なく、逆行性射精の発生率は約2%と従来の手術法と比較して大幅に低減されています。抗凝固薬や抗血小板薬を服用中の方でも、休薬せずに治療を受けられる可能性があり、全身状態が不良な方や高齢者にも適応できる安全性の高い治療法です。
一方で、治療効果が現れるまでに1~3か月かかることや、前立腺の大きさが30~80mL程度に限定されることなど、適応には制限もあります。
TURPやHoLEPなど従来の手術法と比較して、即効性では劣るものの、体への負担が少なく、性機能温存が期待できる点は大きな利点です。5年間の長期成績でも効果の持続が確認されており、再手術率も4.4%と低い水準を維持しています。前立腺肥大症でお悩みの方は、ご自身の症状や生活スタイル、希望される治療効果を考慮し、泌尿器科専門医と十分に相談した上で、最適な治療法を選択することが重要です。

〈著者情報〉
泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介