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サルコペニアフレイルとは?原因・症状・診断基準を医学的に解説

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高齢化が進む現代社会において、「サルコペニア」と「フレイル」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

これらは単なる老化現象ではなく、適切な対応が必要な医学的状態です。65歳以上の高齢者の約半数が糖尿病を抱え、その中でサルコペニアの有病率は5~50%にも及ぶことが報告されています。筋肉量の減少と機能低下は、転倒や骨折のリスクを高め、最終的には要介護状態へとつながる可能性があります。

本記事では、泌尿器科医として長年高齢者医療に携わってきた経験から、サルコペニアとフレイルの医学的定義、発症メカニズム、診断基準について詳しく解説します。早期発見と適切な介入により、健康寿命を延ばすことは十分に可能です。

サルコペニアとフレイルの医学的定義

サルコペニアとフレイルは密接に関連していますが、医学的には異なる概念として定義されています。

サルコペニアとは

骨格筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少を特徴とする老年症候群です。具体的には、筋肉量の低下に加えて、握力の低下や歩行速度の低下といった身体機能の障害を伴う状態を指します。日常生活では、ビンの蓋が開けられない、階段の上り下りが困難になる、歩行速度が遅くなるといった症状として現れます。

フレイルとは

加齢に伴う様々な臓器機能の変化や予備能力の低下によって、外的ストレスに対する脆弱性が亢進した状態です。健常な状態と要介護状態の中間に位置する概念として理解されています。

フレイルの診断基準(Friedの表現型モデル)

フレイルの診断には、以下の5項目が用いられます。

  • 意図しない体重減少(1年間で4.5kgまたは5%以上)
  • 疲労感(週に3~4日以上)
  • 筋力低下(握力の低下)
  • 運動緩慢(歩行速度の低下)
  • 低活動(身体活動量の減少)

これらのうち3項目以上に該当する場合をフレイル、1~2項目に該当する場合をプレフレイルと診断します。注目すべき点は、筋力低下と歩行速度低下がサルコペニアの診断項目にも含まれていることです。つまり、フレイルの中核的な病態として骨格筋の機能低下が位置づけられているのです。

両者の違いと共通点

サルコペニアが主に身体的な筋肉機能の低下を指すのに対し、フレイルは身体的側面に加えて、精神心理的要因や社会的要因も含む包括的な概念です。しかし、両者は相互に関連し、しばしば共存します。

実際の臨床現場では、サルコペニアがフレイルの入り口となるケースを多く経験します。筋力低下により活動量が減少し、それが食欲低下や社会的孤立につながり、最終的にフレイル状態へと進行していくのです。

サルコペニアとフレイルの発症原因

これらの病態が発症するメカニズムは複雑です。

加齢に伴う変化が基盤にありますが、それだけでは説明できない要因が多数関与しています。

一次性サルコペニア:加齢による変化

加齢そのものが原因となるサルコペニアを一次性サルコペニアと呼びます。25~30歳頃から筋線維の数と筋肉の横断面積が徐々に減少し始め、70~80歳代では若年時と比べて約30~40%の骨格筋が失われます。

この過程では、体内で筋肉を作るタンパク質の生成量が減少し、逆に分解が促進されます。また、成長ホルモンやテストステロンといった筋肉の合成に関わるホルモンの分泌も低下していきます。

二次性サルコペニア:複合的な要因

加齢以外の要因で発症するサルコペニアは二次性サルコペニアと分類されます。主な原因として以下が挙げられます。

  • 活動性の低下:入院や安静臥床による急速な筋力低下
  • 栄養不足:タンパク質やビタミンDの摂取不足
  • 疾患関連:糖尿病、がん、慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患など

特に注意が必要なのは、入院などの環境変化です。数日から1週間という短期間で急激にサルコペニアを発症することがあります。これは「廃用症候群」として知られる状態で、予防的な介入が極めて重要になります。

共通する病態メカニズム

サルコペニアとフレイルは、インスリン抵抗性、慢性炎症、ミトコンドリア機能不全という共通のメカニズムを共有しています。

特に糖尿病患者では、これらのメカニズムが相互に作用し合い、サルコペニアとフレイルの発症リスクが高まります。TNFα、IL-1、IL-6といった炎症性サイトカインの上昇は、インスリン抵抗性を引き起こし、筋タンパク質の分解を促進します。

また、ミトコンドリア機能不全により脂質の酸化が障害され、筋細胞内に脂質が蓄積することで、さらにインスリン抵抗性が悪化するという悪循環が形成されます。このような複雑な相互作用が、高齢者における筋肉量と機能の低下を加速させているのです。

サルコペニアの具体的な症状

サルコペニアの症状は日常生活の様々な場面で現れます。

最も特徴的なのは、以前は何気なくできていた動作が困難になることです。信号が青から赤に変わる間に交差点を渡りきれない、ドアノブやペットボトルの蓋が開けられない、階段の上り下りで手すりが必要になる、といった変化が見られます。

身体機能の低下

握力の低下は最も客観的に測定できる指標の一つです。アジア人の基準では、男性で26kg未満、女性で18kg未満が握力低下と判定されます。歩行速度についても、通常の歩行速度が1.0m/秒未満になると、身体機能の低下が示唆されます。

また、椅子からの立ち上がり動作にも変化が現れます。5回連続で椅子から立ち上がるのに12秒以上かかる場合、筋力低下が疑われます。これらの変化は、転倒リスクの上昇と密接に関連しています。

日常生活への影響

筋力低下は、買い物袋を持つ、掃除機をかける、布団の上げ下ろしをするといった日常的な動作を困難にします。さらに進行すると、入浴や着替えといった基本的な日常生活動作(ADL)にも支障をきたすようになります。

このような身体機能の低下は、外出機会の減少、社会的孤立、抑うつ状態といった精神心理的・社会的問題へと連鎖していきます。まさにフレイルへの移行過程と言えるでしょう。

診断基準と評価方法

正確な診断は適切な介入の第一歩です。

現在、日本サルコペニア・フレイル学会でも推奨されているのが、AWGS2019(Asian Working Group for Sarcopenia 2019)に基づいた診断基準です。この基準では、筋肉の力、機能、量という3つの指標を用いて総合的に判定します。

筋肉の力:握力測定

握力は筋力を評価する最も簡便で信頼性の高い指標です。測定には専用の握力計を使用し、左右それぞれ2回ずつ測定して最大値を採用します。アジア人の基準値は、男性28kg未満、女性18kg未満で筋力低下と判定されます。

筋肉の機能:身体パフォーマンス評価

身体機能の評価には複数の方法があります。

  • 歩行速度:6mの距離を通常の速度で歩き、1.0m/秒未満で機能低下と判定
  • 5回椅子立ち上がりテスト:腕を組んで椅子から5回立ち上がる時間を測定し、12秒以上で機能低下
  • SPPB(Short Physical Performance Battery):バランス、歩行、椅子立ち上がりを総合評価し、9点以下で機能低下

筋肉の量:骨格筋量測定

筋肉量の測定には、生体電気インピーダンス法(BIA法)または二重エネルギーX線吸収法(DXA法)が用いられます。両腕両脚の筋肉量を測定し、身長の2乗で補正した値を骨格筋指数(SMI)として算出します。

BIA法による基準値は、男性7.0kg/m²未満、女性5.7kg/m²未満で筋肉量低下と判定されます。DXA法では、男性7.0kg/m²未満、女性5.4kg/m²未満が基準となります。

診断の流れ

サルコペニアの診断には、筋肉量の低下が必須条件となります。筋肉量が低下しており、筋力または身体機能のいずれかが低下している場合にサルコペニア、両方とも低下している場合に重症サルコペニアと判定します。

ただし、BIA法やDXA法による筋肉量測定は、設備が整った医療機関でしか実施できません。そのため、かかりつけ医での初期評価では、握力と歩行速度の測定から始めることが推奨されています。これらの指標で異常が認められた場合、専門機関への紹介を検討します。

よくある質問

Q1. サルコペニアとフレイルの違いは何ですか?

サルコペニアは主に筋肉量と筋力の低下を指す身体的な状態ですが、フレイルは身体的側面に加えて、精神心理的要因や社会的要因も含む包括的な概念です。サルコペニアが「筋肉の問題」であるのに対し、フレイルは「全身の虚弱状態」を意味します。ただし、両者は相互に関連しており、サルコペニアがフレイルの入り口となるケースが多いのです。筋力低下により活動量が減少し、それが食欲低下や社会的孤立につながり、最終的にフレイル状態へと進行していきます。実際の臨床現場では、フレイルの診断基準5項目のうち、筋力低下と歩行速度低下がサルコペニアの診断項目にも含まれており、骨格筋の機能低下がフレイルの中核的な病態として位置づけられています。

Q2. サルコペニアはどのような症状で気づけますか?

サルコペニアの症状は日常生活の様々な場面で現れます。最も特徴的なのは、以前は何気なくできていた動作が困難になることです。例えば、信号が青から赤に変わる間に交差点を渡りきれない、ドアノブやペットボトルの蓋が開けられない、階段の上り下りで手すりが必要になる、といった変化が見られます。また、椅子からの立ち上がりに時間がかかる、買い物袋を持つのがつらい、掃除機をかけるのが大変になるなどの症状も典型的です。握力の低下も重要なサインで、アジア人の基準では男性で28kg未満、女性で18kg未満が握力低下と判定されます。こうした身体機能の低下は転倒リスクの上昇と密接に関連しており、早期発見が重要です。

Q3. 何歳くらいからサルコペニアのリスクが高まりますか?

筋肉量の減少は実は25~30歳頃から始まっています。ただし、臨床的に問題となるのは65歳以上の高齢者です。70~80歳代では若年時と比べて約30~40%の骨格筋が失われると言われています。65歳以上の高齢者の約半数が糖尿病を抱えており、その中でサルコペニアの有病率は5~50%にも及ぶことが報告されています。加齢に伴い、体内で筋肉を作るタンパク質の生成量が減少し、逆に分解が促進されます。また、成長ホルモンやテストステロンといった筋肉の合成に関わるホルモンの分泌も低下していきます。そのため、65歳を過ぎたら定期的に筋力や歩行速度をチェックし、早期発見・早期介入を心がけることが大切です。

Q4. サルコペニアはどのように診断されますか?

サルコペニアの診断には、筋肉の力、機能、量という3つの指標を用いて総合的に判定します。まず、握力測定で筋力を評価します。アジア人の基準値は男性28kg未満、女性18kg未満で筋力低下と判定されます。次に、歩行速度や椅子からの立ち上がりテストで身体機能を評価します。通常の歩行速度が1.0m/秒未満、または5回連続で椅子から立ち上がるのに12秒以上かかる場合、機能低下が疑われます。最後に、生体電気インピーダンス法(BIA法)やDXA法で筋肉量を測定します。筋肉量が低下しており、筋力または身体機能のいずれかが低下している場合にサルコペニア、両方とも低下している場合に重症サルコペニアと判定します。かかりつけ医では握力と歩行速度の測定から始めることが推奨されています。

Q5. サルコペニアやフレイルは予防・改善できますか?

はい、適切な介入により予防・改善することは十分に可能です。サルコペニアとフレイルは単なる老化現象ではなく、対処可能な医学的状態です。重要なのは早期発見と早期介入です。主な予防・改善策として、適切なタンパク質摂取(体重1kgあたり1.0~1.2g)、ビタミンDの補給、レジスタンス運動(筋力トレーニング)、有酸素運動などが推奨されています。特に入院や安静臥床による急速な筋力低下には注意が必要で、数日から1週間という短期間でサルコペニアを発症することがあります。日常生活では、階段の上り下り、買い物での荷物運び、庭仕事など、日常的に筋肉を使う活動を続けることが重要です。気になる症状がある方は、泌尿器科や内科を受診してご相談ください。

まとめ

サルコペニアとフレイルは、高齢者の健康寿命を脅かす重要な医学的状態です。

サルコペニアは骨格筋量と筋力の低下を特徴とし、フレイルは身体的・精神的・社会的側面を含む包括的な虚弱状態を指します。両者は密接に関連し、しばしば共存することが明らかになっています。

発症には、加齢による一次性要因と、活動低下や栄養不足、疾患などの二次性要因が関与します。特にインスリン抵抗性、慢性炎症、ミトコンドリア機能不全という共通のメカニズムが、筋肉量と機能の低下を促進することが分かっています。

診断には、握力、歩行速度、骨格筋量という3つの指標が用いられ、AWGS2019の基準に基づいて総合的に評価されます。早期発見と適切な介入により、要介護状態への進行を防ぐことが可能です。

気になる症状がある方は、まずかかりつけ医にご相談ください。適切な評価と介入により、健康寿命を延ばすことができます。

引用論文

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9318510/

 

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