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「最近、家族からいびきを指摘された」「朝起きても疲れが取れない」
そんな悩みを抱えている方は、実は少なくありません。いびきは単なる騒音の問題ではなく、睡眠時無呼吸症候群(OSA)という深刻な病気のサインかもしれないのです。近年、いびき治療の選択肢は多様化しており、従来のCPAP療法やマウスピースに加えて、レーザー治療という新しい選択肢も注目を集めています。
この記事では、現在のいびき治療の選択肢や限界、そして非侵襲的なレーザー治療(ナイトレーズ)の特徴について、泌尿器科医の視点から解説していきます。睡眠の質は、日中のパフォーマンスだけでなく、長期的な健康維持にも大きく影響します。適切な治療法を選択するための情報として、ぜひ参考にしてください。
いびきと睡眠時無呼吸症候群の関係性
いびきは、睡眠中に気道が狭くなることで、空気の流れが軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ)を振動させることで発生します。
多くの方が「いびきは誰にでもあること」と軽く考えがちですが、実はいびきの背後には睡眠時無呼吸症候群が隠れているケースが少なくありません。睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が10秒以上止まる状態が1時間に5回以上繰り返される病気です。
単純ないびきと睡眠時無呼吸症候群の違い
単純ないびきと睡眠時無呼吸症候群は、似ているようで全く異なります。
単純ないびきは、気道が少し狭くなって音が出ている状態です。睡眠の質はやや低下しますが、呼吸が完全に止まることはありません。一方、睡眠時無呼吸症候群では、気道が完全に塞がってしまい、呼吸が繰り返し止まります。
呼吸が止まるたびに、体は深刻な酸欠状態になります。脳は危険を察知して何度も目を覚まさせるため、本人は覚えていなくても、睡眠の質が著しく低下しているのです。この状態が続くと、日中の激しい眠気や集中力低下だけでなく、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの重大な病気のリスクを大幅に高めることが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす健康リスク
睡眠時無呼吸症候群は、単に「疲れが取れない」だけの問題ではありません。
最近の研究では、睡眠時無呼吸症候群と認知症の関係も注目されています。200万人以上のデータを分析した大規模研究によると、睡眠時無呼吸症候群の患者は血管性認知症の発症リスクが約29%高いことが明らかになりました。特に40歳以上の男性では、この関係が顕著に見られます。
夜間の低酸素状態が繰り返されることで、脳へのダメージが蓄積されていくと考えられています。「いびきがうるさい」「日中にうたた寝をする」といった症状がある場合、早めに医療機関での検査を受けることが大切です。
現在のいびき治療の選択肢と限界
いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療法には、いくつかの選択肢があります。
それぞれの治療法には特徴があり、患者さんの症状や生活スタイルに応じて適切な方法を選択することが重要です。ここでは、代表的な治療法とその限界について見ていきましょう。
CPAP療法のメリットとデメリット
CPAP(持続陽圧呼吸)療法は、睡眠時無呼吸症候群の標準的な治療法として広く使用されています。
鼻に装着したマスクから空気を送り込むことで、気道を開いた状態に保つ仕組みです。重症の睡眠時無呼吸症候群に対しては高い効果が期待でき、適切に使用すれば認知症リスクの軽減にもつながる可能性があります。
しかし、毎晩マスクを装着する必要があるため、わずらわしさを感じる方も少なくありません。旅行や出張の際に持ち運ぶ手間もあり、長期的な継続が難しいと感じる患者さんもいます。また、マスクによる圧迫感や、機械音が気になって眠れないという声も聞かれます。
マウスピース療法の適応と課題
マウスピース療法は、下顎を前方に固定することで気道を広げる治療法です。
軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群に対して有効とされており、CPAP療法に比べて装着感が軽く、持ち運びも容易です。歯科医院で作成するオーダーメイドのマウスピースを使用するため、比較的快適に使用できる方が多いです。
ただし、顎関節に負担がかかる可能性があり、長期使用で顎の痛みや歯並びの変化が生じることがあります。また、重症の睡眠時無呼吸症候群には効果が限定的で、すべての患者さんに適応できるわけではありません。
外科手術の選択肢とリスク
従来の外科手術では、軟口蓋や口蓋垂をメスやレーザーで切除する方法が行われてきました。
気道を物理的に広げることで、いびきや無呼吸の改善を目指します。しかし、全身麻酔が必要で、術後の痛みや出血、飲み込みにくさなどの合併症が数週間続くことがあります。入院が必要になるケースも多く、仕事や日常生活への影響も考慮しなければなりません。
また、手術による改善効果には個人差があり、すべての患者さんで満足のいく結果が得られるとは限りません。術後の違和感や、食べ物が飲み込みにくいといった後遺症が残る可能性もあります。
レーザー治療(ナイトレーズ)という新しい選択肢
近年、いびき治療の新しい選択肢として注目されているのが、レーザー治療です。
特に「ナイトレーズ(NightLase)」と呼ばれる治療法は、従来の外科手術とは異なるアプローチで、非侵襲的にいびきを改善する可能性を持っています。ここでは、ナイトレーズ治療の特徴と、科学的な根拠について詳しく見ていきましょう。
ナイトレーズ治療のメカニズム
ナイトレーズは、Er:YAGレーザーを使用した非侵襲的な治療法です。
軟口蓋や口蓋垂の粘膜にレーザーを照射することで、組織を引き締め、コラーゲンの生成を促進します。これにより、睡眠中に緩んだ軟口蓋が後方に落ち込むのを防ぎ、気道を広く保つことができるのです。
従来の切除手術と大きく異なるのは、組織を切らずに引き締める点です。レーザーの熱エネルギー(61~63℃)まで加熱することで、コラーゲンが増生され、組織が自然に収縮します。この仕組みにより、切開や縫合が不要となり、患者さんの負担を大幅に軽減できます。
ナイトレーズの臨床効果と安全性
ナイトレーズの有効性は、科学的な研究によって実証されています。
40名の原発性いびき患者を対象としたランダム化比較試験では、ナイトレーズ治療群と偽レーザー治療群を比較しました。その結果、ナイトレーズ群では、いびきの評価指標であるSnore Outcomes Survey(SOS)が33.7±14.1から56.2±16.1へ、ベッドパートナーによる評価(SBPS)が35.0±17.1から61.5±16.4へ、視覚的アナログいびきスコアが7.9±2.0から4.7±2.8へと、すべての指標で有意な改善が見られました。一方、偽治療群では変化がありませんでした。
安全性の面でも優れた結果が示されています。治療中の痛みは軽度で、平均疼痛スコアは3.0±1.7と低く、局所麻酔は不要でした。合併症の発生もなく、治療後すぐに通常の食事や生活が可能です。
ナイトレーズ治療の実際の流れ
ナイトレーズ治療は、日帰りで受けられる手軽さが特徴です。
施術時間は30~40分程度で、基本的に麻酔は必要ありません。痛みに弱い方には、スプレーやうがいでのどの麻酔を行うこともあります。照射中は軽度の熱感やピリピリするような刺激を感じることがありますが、我慢できないほどの痛みではありません。
治療は1か月に1回の間隔で5回を目安に行います。効果は施術後数週間かけて徐々に現れ、5回の施術で一定期間効果が維持されます。その後は、いびきの程度に応じて半年から1年に1回程度、メンテナンスの施術を行うことで効果を持続させることができます。
実際の患者さんの例
Aさん(58歳・男性/会社員・中間管理職)
Aさんは、上司と部下の板挟みになることも多く、日々強いプレッシャーの中で仕事をされていました。帰宅は毎日20時過ぎ。晩酌をして0時前には布団に入る生活が続いていましたが、朝起きても疲れが取れず、日中は強い眠気や集中力の低下を感じるようになっていました。
最近では、会議中に頭が働かず、部下の話にも十分に耳を傾けられない自分に気づき、「以前より仕事のパフォーマンスが落ちているのではないか」と不安を感じるようになっていました。
夜は奥さまから「いびきがうるさい」と言われ、別室やソファで寝ることも増え、家庭内でも気まずさを感じることが多くなっていたそうです。
健康診断では特に大きな異常はなく、「年齢や疲れのせいだろう」と思いながらも、このまま放置してよいのかという不安が次第に強くなっていきました。
いびきについて調べる中で、機器を用いたCPAP治療や手術といった方法があることを知りましたが、「仕事を続けながら機械をつける生活は現実的ではない」「手術も切る種手術には抵抗がある」という思いが強く、なかなか治療に踏み切れずにいました。
そんな中で、切らずに行えるレーザー治療という選択肢を知り、「これなら生活を大きく変えずに続けられるかもしれない」と感じたことが、治療を前向きに考えるきっかけとなりました。
まずは話を聞いてみようと受診されたことが、Aさんにとって最初の一歩となりました。
治療後の変化 ― Aさんのその後
Aさんは、医師の説明を受けたうえで、まずは数回の治療を受けてみることを選択されました。治療自体は短時間で終わり、仕事を休む必要もなく、治療当日も普段通りの生活を送ることができました。
1回目の治療後すぐに大きな変化を感じたわけではありませんでしたが、「以前より朝の喉の重だるさが少し楽かもしれない」と感じる日が増えていきました。2回目、3回目と治療を重ねるうちに、朝の目覚めが少しずつすっきりし、日中の眠気や集中力の低下も以前ほど気にならなくなっていったそうです。
ご自宅では、奥さまから「最近、いびきが前より静かになった気がする」と言われるようになり、別室で寝ることも次第に減っていきました。再び同じ寝室で眠れるようになったことは、Aさんにとって大きな安心感につながったといいます。
仕事の面でも、会議中に頭が冴えないと感じる場面が減り、部下の話を落ち着いて聞ける時間が増えてきました。「以前の自分に少し戻ってきた感じがする」と、ご本人も変化を実感されていました。
Aさんは、「もっと早く相談していればよかった」と振り返りながらも、「手術や機械に頼る前に、体への負担が少ない方法から試せたことが、自分には合っていた」と話されています。現在も状態を見ながら、必要に応じてメンテナンス治療を続けています。
ナイトレーズ治療が向いている方・向いていない方
ナイトレーズ(NightLase)とは
ナイトレーズは、Er:YAGレーザーを使用し、のどの粘膜をやさしく温めることで、睡眠中にゆるみやすい部位を引き締め、いびきの軽減を目指す治療法です。
切開や縫合を行わないため、体への負担が少なく、治療後の日常生活への影響も最小限に抑えられるのが特徴です。
いびきが起こる仕組み
睡眠中は、のど周囲の筋肉が緩みやすくなり、軟口蓋(のどちんこの周囲にある柔らかい部分)や口蓋垂が後方へ落ち込みます。
その結果、空気の通り道が狭くなり、呼吸の際に粘膜が振動することで、いびきが発生します。
ナイトレーズは、こうしたゆるみやすい部分を引き締め、気道を保ちやすくすることを目的とした治療です。
ナイトレーズの作用メカニズム
レーザーによって温められた粘膜は、その場で軽度の引き締め効果を示します。
さらに、体の自然な修復反応が働くことで、組織を支えるコラーゲンなどが再構築され、数週間から数か月かけて粘膜の張りや安定性が高まっていきます。
このためナイトレーズは、
・施術直後に起こる「即時的な引き締め」
・時間をかけて進む「組織の再構築」
この2つの作用によって、いびきの改善を目指す治療といえます。
なぜ複数回の治療が必要なのか
のどは、呼吸や会話、飲み込みなどにより、日常的に大きく動く部位です。
そのため、1回の治療だけでは十分に安定しない場合があります。
軽い刺激と修復を繰り返し重ねることで、組織の状態を徐々に整えていくため、ナイトレーズでは複数回の治療が推奨されます。
これは、筋力トレーニングを継続することで効果が定着していくのと同じ考え方です。
効果の実感について
効果の現れ方には個人差があります。
1回目の治療後から軽い変化を感じる方もいれば、2~3回目以降にいびきの軽減を実感される方もいます。
一般的には、治療後1~2か月ほどで組織の再構築が進み、より安定した状態になることが多いとされています。
痛み・ダウンタイム
治療中は、温かさや軽い刺激を感じることがありますが、多くの方が我慢できる範囲です。
切開を行わないため、出血はほとんどありません。
治療後に、
・のどの違和感
・乾燥感
・軽いヒリヒリ感
が出ることがありますが、通常は数日以内に自然に落ち着きます。
注意点と併用治療について
以下のような場合には、ナイトレーズ単独では十分な効果が得られないことがあります。
・重度の睡眠時無呼吸症候群
・強い鼻づまり
・肥満傾向
・舌の付け根の沈下が主な原因の場合
そのようなケースでは、鼻の治療、マウスピース治療、CPAP療法、舌や喉の筋肉トレーニングなど、他の治療と併用することがあります。
治療の目的
ナイトレーズ治療の目的は、いびきを完全になくすことではありません。
いびきの強さや回数を減らし、睡眠の質の向上やご家族への影響を軽減することを目指します。
治療回数や間隔は、症状や改善の程度を確認しながら、一人ひとりに合わせて調整していきます。
ナイトレーズ治療の適応について
ナイトレーズは、すべての方に適応できる治療ではありません。
治療効果を最大限に引き出すためには、適切な患者さんの選択が重要です。
ナイトレーズ治療の適応条件
ナイトレーズ治療が特に効果を発揮しやすいのは、いびきの原因が軟口蓋や口蓋垂にある方です。
以下の条件に当てはまる方は、良い適応とされています。
・軽度~中等度の睡眠時無呼吸症候群(AHI<15回/時)
・BMIが30以下
肥満体型ではない場合、喉周囲の脂肪による気道の圧迫が少ないため、レーザーによる引き締め効果が十分に発揮されやすくなります。
また、
・CPAP療法を継続できなかった方
・マウスピース治療が合わなかった方
にとって、新たな選択肢となる可能性があります。
現在CPAP治療を行っている方でも、レーザー治療を併用することで、より快適な睡眠が得られる場合があります。
ナイトレーズ治療が向いていないケース
一方で、いびきの原因が鼻づまりや鼻の疾患にある場合、ナイトレーズ治療のみでは十分な効果が期待できません。
・アレルギー性鼻炎
・鼻中隔弯曲症
・慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
などがある場合は、まず鼻の治療を行い、正常な鼻呼吸を確保することが優先されます。
また、舌根の肥大が原因となっているいびきに対しても、効果は限定的です。
重度の睡眠時無呼吸症候群(1時間に30回以上の無呼吸)がある場合には、レーザー治療のみでの改善は難しいことがあり、CPAP療法やマウスピース治療との併用が必要になる場合があります。
よくある質問(FAQ)
Q1: ナイトレーズ治療は保険適用されますか?
ナイトレーズ治療は保険外診療(自費診療)となります。施術料金は医療機関によって異なりますが、1回あたり11万円前後が目安です。保険診療を行った日には自費診療を受けられないため、治療スケジュールを事前に確認することをおすすめします。
Q2: 治療の効果はどのくらい持続しますか?
1か月に1回の間隔で3回以上施術を受けた場合、効果は1年半から2年以上持続すると報告されています。当院では、効果を持続させるために、舌診による漢方薬のメンテナンスや口腔内のリハビリ、枕や寝具の変更をお伝えしています。ただし、効果の持続期間には個人差があり、生活習慣や体重の変化によっても変わってきます。効果を維持するためには、定期的なメンテナンス施術が推奨されます。
Q3: 治療中や治療後の痛みはありますか?
治療中は軽度の熱感やピリピリするような刺激を感じることがありますが、基本的に麻酔は不要です。痛みに弱い方には、スプレーやうがいでのどの麻酔を行うこともできます。治療後の痛みもほとんどなく、すぐに通常の食事や生活が可能です。
Q4: 治療を受けられない人はいますか?
光過敏症、光アレルギー、てんかん、ヘルペス、口内炎などの既往がある方、ペースメーカーを使用中の方、治療部位に金属プレートが入っている方は、治療を受けられない場合があります。また、治療中の疾患がある方は、事前に医師に相談することが必要です。
Q5: 重度の睡眠時無呼吸症候群でも効果はありますか?
重度の睡眠時無呼吸症候群(1時間に30回以上呼吸が止まる)の場合でも治療効果はありますが、レーザー治療のみでの完治は難しい可能性があります。このような場合は、CPAP療法やマウスピースとの併用を行います。治療前の詳細な診察と評価により、適切な治療法を選択することが重要です。
まとめ:自分に合った治療法を選択するために
いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療法は、年々進化しています。
CPAP療法、マウスピース療法、外科手術、そしてレーザー治療(ナイトレーズ)と、それぞれに特徴があり、患者さんの症状や生活スタイルに応じて適切な方法を選択することが大切です。ナイトレーズは、非侵襲的で日帰り治療が可能という点で、新しい選択肢として注目されています。
しかし、どの治療法が最適かは、いびきの原因や重症度、患者さんの体質や生活環境によって異なります。まずは専門医による詳細な診察を受け、自分のいびきの原因を正確に把握することが第一歩です。鼻の疾患がある場合は、その治療を優先することも重要です。
睡眠の質と無呼吸の改善は、日中のパフォーマンスだけではなく、夜間頻尿・多尿、心疾患、脳卒中、糖尿病、高血圧など長期的な健康維持に非常に重要です。当院では、いびきと無呼吸、睡眠の質も解析を行っています。いびきを「たかがいびき」と軽視せず、適切な治療を受けることで、より健康で快適な生活を送ることができるのです。
当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療プランをご提案しています。いびきや睡眠時無呼吸症候群でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
引用論文