テストステロン低下と夜間頻尿の関係性
夜間に何度もトイレに起きる夜間頻尿。この症状に悩まされている方は非常に多いものです。特に40代以降の男性に多く見られ、年齢を重ねるにつれて増加する傾向があります。
夜間頻尿の原因はさまざまですが、実は男性ホルモンであるテストステロンの低下が大きく関わっていることが近年の研究で明らかになってきました。テストステロンは筋肉づくりや性機能だけでなく、実は排尿機能にも深く関与しているのです。
テストステロンが減少すると、尿量を制御する抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌も減少し、夜間頻尿のリスクが高まります。つまり、テストステロンの低下は夜間の尿量増加に直結するのです。
私は泌尿器科医として多くの患者さんを診てきましたが、夜間頻尿に悩む男性の多くは、テストステロン値が低下している傾向にあります。テストステロンは20代をピークに徐々に減少していきますが、その減少速度や時期には個人差があります。
テストステロン低下が膀胱機能に与える影響
テストステロンの低下は膀胱機能にも大きな影響を与えます。筋肉づくりに欠かせないテストステロンが減少すると、膀胱の筋肉(排尿筋)が硬くなりやすくなるのです。
膀胱の筋肉が硬くなると、膀胱の柔軟性や弾力性が失われ、尿を十分にためることができなくなります。その結果、少量の尿でも膀胱が収縮して尿意を感じやすくなり、頻尿の原因となるのです。また、膀胱の血流も悪くなることで、膀胱の機能がさらに低下します。
テストステロンが減少すると、膀胱の動きが鈍くなり、血管をやわらかくする一酸化窒素が減少します。これにより、膀胱の排尿筋だけでなく尿道括約筋も柔軟性を失い、排尿機能全体が低下するのです。
私の臨床経験からも、テストステロン値が低い患者さんほど、膀胱の機能低下が顕著であることがわかっています。特に夜間頻尿に悩む患者さんでは、膀胱の収縮力や弾力性の低下が見られることが多いのです。
さらに、テストステロンの低下は骨盤底筋の衰えにもつながります。骨盤底筋は排尿や排便にかかわる重要な筋肉で、その筋力が低下すると尿道を適切に支えることができなくなり、頻尿や尿漏れの原因となります。
テストステロンと抗利尿ホルモンの関係
テストステロンと夜間頻尿の関係を理解するうえで重要なのが、抗利尿ホルモン(バソプレシン)との関連です。バソプレシンは腎臓での水分再吸収を促進し、尿量を減らす働きがあります。
研究によれば、テストステロンはバソプレシンの分泌を促進する効果があることがわかっています。つまり、テストステロンが減少すると、バソプレシンの分泌も減少し、結果として尿量が増加するのです。
特に夜間は、本来バソプレシンの分泌が増加して尿量を抑制する仕組みになっていますが、テストステロンが低下すると、この夜間のバソプレシン分泌も減少してしまいます。その結果、夜間の尿量が増加し、夜間頻尿につながるのです。
テストステロンの低下は夜間のバソプレシン分泌を減少させ、夜間多尿を引き起こす重要な要因となります。
臨床の現場では、テストステロンを補充すると、夜中につくられる尿を減らすバソプレシンの分泌が増えることが確認されています。また、バソプレシンを投与して夜中にトイレに行く回数が減ると、テストステロンの量が増えることもわかっています。
この相互関係は非常に興味深く、テストステロンの低い人ほど、夜中に何度もトイレに行くことになるという事実を裏付けています。
夜間頻尿とテストステロン低下の悪循環
夜間頻尿とテストステロン低下は、お互いに影響し合う悪循環を形成することがあります。テストステロンが低下すると夜間頻尿が起こりやすくなり、夜間頻尿によって睡眠が妨げられると、さらにテストステロンの分泌が減少するのです。
人の体は夜の睡眠中に免疫力を高め、骨や筋肉など体を構成するのに重要なテストステロンやコルチゾールなどをつくるといわれています。そのため、夜間頻尿によって睡眠が浅くなると、ホルモンバランスが崩れ、テストステロンの分泌がさらに低下するのです。
この悪循環は、単に排尿の問題だけでなく、全身の健康状態にも影響を及ぼします。夜間に2回以上トイレに起きる人は、1回以下の人と比べて死亡率が約2倍以上になるという研究データもあります。また、夜間頻尿は転倒や骨折のリスクを高めるため、「年齢のせいだから仕方ない」と放置してはいけません。
睡眠の質とテストステロン分泌
質の良い睡眠、特にレム睡眠とノンレム睡眠の深い段階は、テストステロン分泌に重要な役割を果たします。夜間頻尿によって睡眠が断続的になると、これらの深い睡眠段階が妨げられ、テストステロン分泌が低下します。
私の診療経験からも、睡眠の質を改善することで、テストステロン値が上昇し、夜間頻尿が改善するケースを多く見てきました。睡眠とホルモンバランスは密接に関連しているのです。
夜間頻尿に悩む患者さんには、単に排尿の問題だけでなく、睡眠の質やホルモンバランスも含めた総合的なアプローチが必要です。
テストステロン低下による夜間頻尿の対策
テストステロン低下による夜間頻尿を改善するためには、いくつかの効果的な対策があります。まずは生活習慣の改善から始め、必要に応じて医学的治療を検討しましょう。
生活習慣の改善
テストステロンを増やすための生活習慣改善は、夜間頻尿の対策としても効果的です。具体的には以下のような方法があります。
- 適切な運動:特に筋力トレーニングはテストステロン分泌を促進します。週に2〜3回、30分程度の筋トレを取り入れましょう。
- 質の良い睡眠:7〜8時間の十分な睡眠を心がけ、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控えましょう。
- 栄養バランスの良い食事:タンパク質、亜鉛、ビタミンDを含む食品を積極的に摂取しましょう。魚介類やウリ科の食品に多く含まれるアルギニン、シトルリンもテストステロン増加に役立ちます。
- ストレス管理:過度のストレスはコルチゾールを増加させ、テストステロンを低下させます。瞑想やリラクゼーション法を取り入れましょう。
また、夜間頻尿を直接改善するための生活習慣として、以下の点に注意しましょう。
- 寝る前の水分摂取を控える:寝る2時間前からは喉が乾いたらうがいにするなど、水分摂取を控えましょう。
- 飲酒のタイミングを工夫する:アルコールの利尿作用は約4時間後に始まるため、就寝の4時間以上前に飲酒を終えるようにしましょう。
- カフェインを含む飲料に注意する:カフェインには利尿作用があるため、夕方以降の摂取は控えましょう。
医学的治療
生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合、医学的治療を検討する必要があります。テストステロン低下による夜間頻尿に対する主な治療法には以下のようなものがあります。
- テストステロン補充療法:血中テストステロン値が低い場合、テストステロン補充療法が効果的です。注射薬や塗り薬があり、患者さんの状態に合わせて選択します。
- デスモプレシン治療:デスモプレシンは抗利尿ホルモン(バソプレシン)の合成類似体で、夜間の尿量を減らす効果があります。研究では、デスモプレシン治療によって低テストステロン値の男性のテストステロン値が有意に上昇することも確認されています。
- 前立腺肥大症の治療:前立腺肥大症が併存する場合は、その治療も重要です。α遮断薬や5α還元酵素阻害薬などの薬物療法、または必要に応じて低侵襲の日帰り手術を検討します。
- 磁気刺激治療:高強度高周波磁気による磁場を利用して骨盤底筋群や神経系を刺激する治療法で、夜間頻尿や勃起不全の改善に効果が期待できます。
私の臨床経験では、テストステロン低下による夜間頻尿には、単一の治療法ではなく、患者さんの状態に合わせた総合的なアプローチが最も効果的です。テストステロン補充療法とデスモプレシン治療を組み合わせることで、夜間頻尿が劇的に改善するケースも多く経験しています。
参考文献: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7475899/
参考文献: https://www.goldjournal.net/article/S0090-4295%2814%2900053-3/abstract
まとめ:テストステロン低下と夜間頻尿の関係
テストステロン低下と夜間頻尿の関係について、重要なポイントを整理しましょう。
- テストステロンの低下は抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌減少を引き起こし、夜間の尿量を増加させます。
- テストステロンが減少すると膀胱の筋肉が硬くなり、膀胱の柔軟性や弾力性が失われ、尿を十分にためることができなくなります。
- 夜間頻尿とテストステロン低下は悪循環を形成し、睡眠の質の低下がさらにテストステロン分泌を減少させます。
- 対策としては、適切な運動、質の良い睡眠、栄養バランスの良い食事、ストレス管理などの生活習慣改善が基本となります。
- 必要に応じて、テストステロン補充療法やデスモプレシン治療などの医学的治療を検討します。
夜間頻尿は単なる加齢現象ではなく、テストステロン低下という明確な原因があり、適切な対策によって改善が期待できます。「年齢のせいだから仕方ない」と諦めるのではなく、専門医に相談し、適切な治療を受けることが重要です。
健康で長生きをするためには、尿トラブルを放置せず、「排尿」を入り口として体調を見直すことが大切です。テストステロン値の改善は、夜間頻尿の解消だけでなく、全身の健康状態の向上にもつながります。
〈著者情報〉
泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介