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尿失禁が睡眠に与える影響~改善法と対策

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尿失禁と睡眠の関係性~見過ごされがちな問題

夜間、ぐっすりと眠りたいのに何度もトイレに起きなければならない経験はありませんか?

尿失禁は単なる不便さだけでなく、睡眠の質を著しく低下させ、日常生活全体に大きな影響を及ぼします。特に女性に多く見られるこの症状は、健康関連の生活の質に多大な影響を与え、個人的・社会的に多大な出費を伴うことが明らかになっています。

成人女性の約30%が尿失禁を経験しており、年齢とともにその割合は増加する傾向にあります。しかし多くの方が「年齢のせいだから」「誰にでも起こること」と諦めてしまい、適切な対処を行わないまま過ごしています。

尿失禁の種類と睡眠への影響メカニズム

尿失禁には主に2つのタイプがあります。咳やくしゃみなどの身体活動に伴って尿が漏れる「腹圧性尿失禁」と、突然の強い尿意に伴って尿が漏れる「切迫性尿失禁」です。両方の症状を経験する場合は「混合性尿失禁」と呼ばれます。

腹圧性尿失禁は50代でピークを迎え、その後は混合性尿失禁と切迫性尿失禁の有病率が増加していきます。これらの症状は睡眠に大きな影響を与えるのです。

特に夜間の睡眠に影響するのが「夜間頻尿」です。夜間頻尿とは、夜寝ついてから朝起きるまでに1回以上トイレに行く必要があり、それによって睡眠が中断される症状を指します。この症状は加齢とともに増加し、80歳以上の男性では2回以上トイレに起きる人が約8割にも達するといわれています。

夜間頻尿と尿失禁が組み合わさると、睡眠の質は著しく低下します。特に重要なのは、就寝から最初の排尿までの時間です。睡眠には約90分周期のサイクルがあり、最初の3時間が最も深い良質な睡眠が得られる時間帯。この時間帯に排尿で起きてしまうと、睡眠の質が大きく損なわれてしまいます。

夜間頻尿の主な原因

夜間頻尿の原因は大きく分けて以下の3つのタイプに分類できます。

  • 夜間多尿型(尿量が多いタイプ):夜間に作られる尿の量が多すぎることが原因です。1日の総尿量のうち、夜間尿量が33.3%以上になると夜間多尿と診断されます。
  • 膀胱蓄尿障害型(膀胱に尿をあまりためられないタイプ):膀胱の容量が小さくなる、または膀胱が過敏になることで、少量の尿でも排尿したくなる状態です。
  • 睡眠障害型:睡眠の質が低下することで、軽い尿意でも目が覚めてしまう状態です。

多くの場合、これらの要因が複合的に関わっているため、総合的なアプローチが必要になります。

尿失禁が睡眠不足を引き起こすリスク

夜間頻尿による睡眠の断続的な中断は、単なる不便さにとどまらず、健康に深刻な影響を及ぼします。

驚くべきことに、夜間頻尿のある人はない人に比べて、骨折による入院の割合がほぼ倍増するというデータがあります。夜中に暗い中でトイレに行く際に転倒するリスクが高まるためです。さらに、死亡率も2倍以上になるという研究結果も報告されています。

睡眠不足がもたらす健康リスクは想像以上に深刻です。

  • 日中のパフォーマンス低下(眠気や集中力低下、疲労感)
  • うつ病リスクの増加
  • 免疫機能の低下
  • 認知機能の低下
  • 高血圧や心疾患のリスク上昇
  • 要介護リスクの上昇

特に重要なのは、睡眠の質の低下が日中の活動性を下げ、それが筋力低下や体力減少につながり、さらに夜間の排尿問題を悪化させるという悪循環を生み出すことです。

尿失禁と睡眠障害の悪循環

夜間頻尿と不眠は互いに関係し、悪循環を引き起こすことが知られています。夜間に尿意を感じて目が覚めるケースもあれば、逆に夜間に目が覚めると尿意を感じるケースもあります。

高齢になると深い睡眠が減り、中途覚醒が多くなりますが、この中途覚醒は膀胱容量の低下を招き、夜間頻尿につながります。さらに、睡眠が浅くなることで、通常なら気にならない程度の尿意でも目覚めてしまうようになるのです。

この悪循環を断ち切るためには、尿失禁の原因に応じた適切な対策と、良質な睡眠を確保するための工夫が必要です。

尿失禁による睡眠障害の改善法

尿失禁による睡眠障害を改善するためには、まず原因を正確に把握することが重要です。自分がどのタイプの尿失禁に悩んでいるのか、どのような要因が影響しているのかを理解することで、効果的な対策を講じることができます。

夜間多尿型への対策

夜間多尿型の尿失禁に悩んでいる場合は、以下の対策が効果的です。

  • 水分摂取のタイミングと量の調整:就寝前2〜3時間は水分摂取を控えめにします。ただし、日中の水分摂取は適切に行いましょう。
  • 利尿作用のある飲食物を避ける:カフェイン、アルコール、スパイシーな食べ物は就寝前に避けましょう。
  • 塩分摂取の制限:塩分の過剰摂取は体内の水分保持を促し、夜間の尿量増加につながります。
  • 就寝前の下肢挙上:就寝前に30分程度、足を心臓より高い位置に上げることで、下肢にたまった水分が循環し、就寝中の尿量減少につながります。

特に男性の夜間頻尿の原因の約7割は「夜間多尿」によるものといわれています。生活習慣の見直しで大きく改善できる可能性があります。

膀胱蓄尿障害型への対策

膀胱の容量が小さくなっている、または過敏になっている場合は、以下の対策が効果的です。

  • 骨盤底筋トレーニング:骨盤底筋を鍛えることで、尿道括約筋の機能を高め、尿漏れを防ぐことができます。
  • 膀胱訓練:計画的に排尿間隔を延ばし、尿意をコントロールする行動療法です。
  • 過活動膀胱への対処:過活動膀胱と診断された場合は、専門医の指導のもと、適切な薬物療法を検討しましょう。

当院では、尿失禁患者に対する集団指導での運動療法を実施しており、多くの患者さんが症状の改善を実感しています。骨盤底筋トレーニングは正しい方法で継続することが重要です。

睡眠障害型への対策

睡眠の質が低下していることが原因の場合は、以下の対策が効果的です。

  • 睡眠環境の整備:寝室の温度、湿度、光、音などを快適な睡眠に適した環境に整えましょう。
  • 就寝前のリラックス:入浴やストレッチ、読書など、リラックスできる活動を取り入れましょう。
  • 規則正しい睡眠スケジュール:毎日同じ時間に起床・就寝することで、体内時計を整えることができます。
  • 睡眠時無呼吸症候群のチェック:睡眠時無呼吸症候群は夜間頻尿の原因になることがあります。疑いがある場合は専門医に相談しましょう。

睡眠の質を高めることで、軽い尿意で目覚めることが減り、夜間の排尿回数を減らすことができます。

医学的アプローチによる尿失禁改善法

生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合は、医学的アプローチを検討する必要があります。尿失禁のタイプによって、適切な治療法が異なります。

腹圧性尿失禁の治療

腹圧性尿失禁に対しては、まず骨盤底筋トレーニングなどの保存的治療を試みるべきですが、効果が不十分な場合は外科的治療も選択肢となります。

  • 中間尿道スリング手術:合成メッシュのストリップを用いた手術で、治癒率は80%以上、合併症率は低いとされています。
  • 膣内排泄補助ペッサリー:手術を回避または延期したい場合に、尿道を圧迫することを目的とした膣内器具を使用する方法です。
  • 薬物療法:デュロキセチンなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤が欧州では承認されていますが、副作用の懸念もあります。

外科的治療を検討する際は、メリットとリスクをよく理解し、専門医とよく相談することが重要です。

切迫性尿失禁の治療

切迫性尿失禁に対しては、膀胱訓練などの行動療法に加え、以下の治療法が効果的です。

  • 抗コリン薬:排尿筋に直接作用して、切迫性尿失禁を軽減します。口渇、便秘、かすみ目などの副作用に注意が必要です。
  • β3アドレナリン作動薬:ミラベグロンなどが該当し、抗コリン薬と同等の有効性がありながら、口渇などの副作用が少ないとされています。
  • 膀胱内ボツリヌス毒素A注射:排尿筋シナプス前神経筋接合部に作用する治療法で、効果は約9〜12ヶ月持続します。
  • 神経調節療法:電気刺激を用いて膀胱の感覚と収縮を変化させる治療法です。

切迫性尿失禁の治療は、症状の程度や患者さんの希望に応じて、段階的に行われることが一般的です。

混合性尿失禁の治療

混合性尿失禁の場合は、より煩わしい症状に対する治療を優先します。多くの場合、まず切迫性尿失禁の症状に対する治療を行い、その後必要に応じて腹圧性尿失禁の治療を行います。

腹圧性尿失禁の手術を受けた後に、切迫性尿失禁の症状が軽減することもありますが、逆に悪化することもあるため、慎重な判断が必要です。

尿失禁と睡眠障害の改善がもたらすQOL向上

尿失禁による睡眠障害を改善することは、単に夜間の排尿回数を減らすだけでなく、生活の質(QOL)全体を大きく向上させます。

尿失禁は命を脅かすものではありませんが、確かに人生を一変させるものとなり得ます。ある調査では、女性の65.7%が排泄管理の状態によって生活の質が影響を受けていると回答しています。

尿失禁と尿意切迫感は、罹患女性の約50%とそのパートナーの20%において性機能にも悪影響を及ぼしているという報告もあります。このように、尿失禁の影響は多岐にわたります。

適切な治療によって尿失禁と睡眠障害を改善することで、以下のような変化が期待できます。

  • 日中の活動性と生産性の向上
  • 精神的健康の改善
  • 社会活動への積極的な参加
  • パートナーとの関係性の向上
  • 転倒・骨折リスクの低減
  • 自信と自己肯定感の回復

尿失禁は年齢とともに増加する傾向がありますが、「歳のせいだから仕方がない」と諦める必要はありません。適切な評価と治療によって、多くの場合、症状の改善が可能です。

専門医への相談のタイミング

以下のような症状がある場合は、専門の泌尿器医に相談することをお勧めします。

  • 日常生活に支障をきたすほどの尿失禁がある
  • 夜間に2回以上トイレに起きる
  • 突然の強い尿意を我慢できない
  • 咳やくしゃみをするたびに尿漏れがある
  • 尿失禁に伴う痛みや不快感がある
  • 血尿がある
  • 尿失禁が急に始まった、または急に悪化した

専門医は、詳細な問診や検査を通じて、あなたの症状の原因を特定し、最適な治療法を提案してくれるでしょう。

参考文献:女性の尿失禁

まとめ:尿失禁と睡眠の問題を解決するために

尿失禁が睡眠に与える影響は想像以上に大きく、放置することで生活の質が著しく低下する可能性があります。しかし、適切な評価と治療によって、多くの場合、症状の改善が可能です。

尿失禁のタイプ(腹圧性、切迫性、混合性)を理解し、自分の症状に合った対策を講じることが重要です。生活習慣の改善、骨盤底筋トレーニング、薬物療法、必要に応じた外科的治療など、さまざまなアプローチがあります。

また、睡眠環境の整備や睡眠習慣の改善も、夜間頻尿の軽減に効果的です。尿失禁と睡眠障害は互いに影響し合い、悪循環を形成することがあるため、両方の問題に総合的に取り組むことが大切です。

尿失禁は恥ずかしいと感じて相談を避けがちですが、専門医に相談することで適切な治療を受けることができます。「年齢のせいだから」と諦めず、積極的に改善を目指しましょう。

 

〈著者情報〉

泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介 

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