前立腺肥大症の日帰り手術が注目される理由
前立腺肥大症による排尿障害は、多くの男性が加齢とともに経験する問題です。60歳で約50%、85歳では90%の男性が何らかの症状を感じ、そのうち約半数が治療を必要とするといわれています。
従来の手術治療では入院が必要で、術後の回復期間も長く、性機能への影響も懸念されていました。しかし近年、日帰りで実施できる低侵襲な治療法が登場し、患者様の選択肢が大きく広がっています。
本記事では、泌尿器科専門医として長年前立腺疾患の治療に携わってきた経験から、UroLift(ウロリフト)とRezum(レジウム)という2つの革新的な日帰り手術について、その特徴や選び方を詳しく解説します。どちらの治療法も2022年に日本で保険適用となり、より多くの患者様が利用できるようになりました。

目次
前立腺肥大症の日帰り手術とは何か
前立腺肥大症の日帰り手術は、低侵襲外科療法(MIST:Minimally Invasive Surgical Therapy)と呼ばれる治療法の一種です。組織を切らない手術であることが最大の特徴です。
これらの治療法は、従来のゴールドスタンダードとされてきた経尿道的前立腺切除術(TURP)、経尿道的前立腺蒸散術(PVP,CVP、アクアブレーション)、経尿道的前立腺核出術(HoLEP)に代わる選択肢として開発されました。最大の特徴は、組織の切除や蒸散,核出加熱による破壊を最小限に抑えながら、尿道の閉塞を解消できる点にあります。
低侵襲治療の基本的な考え方
低侵襲治療では、前立腺組織そのものを大きく切除するのではなく、肥大した組織を圧迫したり、熱エネルギーで変性させたりすることで尿道を拡張します。このアプローチにより、出血や術後の合併症を大幅に減らすことができます。
治療時間は5分から15分程度と非常に短く、多くの場合は局所麻酔で実施可能です。
入院での手術が一般的ですが、当院では、完全日帰り化の手術を提供しています。
従来の手術との違い
TURPなどの従来手術と比較すると、低侵襲治療には以下のような利点があります。
手術時間の短縮
TURPでは平均2時間程度かかるのに対し、UroLiftやRezumは5-10分前後で完了します。
術後のカテーテル留置期間が短い
UroLiftでは留置不要なケースも多く見られますが、概ね1日の留置期間です。Rezumでも数日から1週間程度で、TURPの数日から1週間と比べて患者様の負担が軽減されています。
性機能への影響が極めて少ない
TURPでは逆行性射精が高頻度で発生しますが、UroLiftやRezumではわずか2~3%程度に抑えられています。
UroLift(ウロリフト)の特徴と仕組み
UroLiftは、米国のテレフレックス社が開発した経尿道的前立腺吊上術です。2022年12月までに世界で40万人以上の男性がこの治療を受けており、欧米の泌尿器科学会でも推奨されている治療法です。
UroLiftの治療メカニズム
UroLiftの仕組みは非常にシンプルです。外尿道口からデリバリーデバイスという専用の器具を挿入し、前立腺内に小型のインプラントを留置します。
このインプラントは医療用の縫合糸で構成され、尿道側にステンレス製のストッパー、前立腺皮膜側にはニチノール(ニッケルとチタンの合金)製のタブが付いています。これらで左右の前立腺を結紮し、尿道を物理的に拡張するのです。
通常、一人の患者様に対して4~6個のインプラントを留置します。最大で10箇所まで対応可能で、前立腺の大きさや形状に応じて調整します。
UroLiftの適応と効果
UroLiftは比較的小さめの前立腺肥大(30~80mL程度)に適しています。側葉肥大および中葉肥大を含む中程度までの体積の患者様が対象となります。
治療効果は速やかに現れます。排尿スコア(IPSS)では、ベースラインから3か月後に平均11ポイント、1年後も10ポイントの改善が維持されます。5年後でも8ポイントの改善が持続しており、長期的な効果も確認されています。
QOL(生活の質)スコアでも、ベースラインから3か月後に2.5ポイント、5年後でも2.1ポイントの改善が見られます。これは0~6で評価され、0に近いほど満足度が高いことを示しています。
UroLiftの合併症と注意点
UroLiftは合併症が非常に少ない治療法です。切迫性尿失禁は約3%、排尿障害は約9%、尿閉はほぼ0%と報告されています。
術後数日間は尿道に軽度の痛みや違和感を覚えることがありますが、鎮痛薬で対処可能です。稀に尿路感染症が発生することがありますが、抗菌薬で治療できます。少量の血尿が出ることもありますが、通常は数日で改善します。
重要な点として、UroLiftでは尿道括約筋を傷つけることがないため、術後の尿失禁はほとんど発生しません。また、性機能への影響もなく、射精機能や勃起機能が温存されます。
Rezum(レジウム)の特徴と仕組み
Rezumは、米国のボストン・サイエンティフィック社が開発した経尿道的水蒸気治療です。日本では2022年に厚生労働省の認可を受け、健康保険が適用されるようになりました。
Rezumの治療メカニズム
Rezumは103℃の高温水蒸気を利用する独特な治療法です。前立腺組織は70℃以上の熱が加わると不可逆性に変性する性質があり、この原理を応用しています。
デリバリーデバイスと呼ばれる細い管状の装置を尿道から前立腺まで挿入し、エミッター針という特殊な針の先端から水蒸気を9秒間放出します。使用する水の量はわずか0.42mlです。
水蒸気は対流によって間質を介して供給され、熱エネルギーが迅速かつ均一に分散します。重要な点として、水蒸気は放出された領域から外には出ないため、周囲の組織への影響を最小限に抑えられます。
治療後の変化と効果の発現
103℃の水蒸気で加熱された前立腺組織は即座に細胞膜が変性し、細胞死が起こります。壊死した組織は術後1~3か月の期間をかけて、体の血管やリンパ管から自然に吸収されていきます。
この過程で前立腺が退縮し、狭くなっていた尿道が徐々に広がっていきます。効果の発現には個人差がありますが、おおよそ2週間程度、長くても3か月後には排尿状態の改善が期待できます。
排尿スコアでは、ベースラインから3か月後に平均11ポイント、1年後に12ポイント、5年後でも11ポイントの改善が維持されています。QOLスコアも3か月後に2.1ポイント、5年後に2.2ポイントの改善が持続します。
Rezumの適応範囲と特徴
Rezumの大きな特徴は、UroLiftよりも広い範囲の前立腺肥大に対応できる点です。側葉肥大および中葉肥大に加えて、中心領域の過形成に対する治療も可能です。
前立腺の大きさは30~80mL程度が適応となります。前立腺の形状による制限が比較的少なく、より多くの患者様に適用できる可能性があります。
合併症も少なく、切迫性尿失禁は約5.9%、排尿障害は約16.9%と報告されています。逆行性射精はわずか2%程度で、性機能の温存が期待できます。
UroLiftとRezumの選び方
どちらの治療法を選ぶべきかは、患者様の状態や希望によって異なります。ここでは、選択の際に考慮すべき重要なポイントを解説します。
前立腺の大きさと形状による選択
前立腺の大きさは治療法選択の重要な基準です。両方とも30~80mL程度の前立腺肥大が適応となりますが、形状によって向き不向きがあります。
UroLiftは側葉肥大および中葉肥大に対応しますが、前立腺の形状によっては治療できないケースもあります。一方、Rezumは中心領域の過形成にも対応できるため、より複雑な形状の肥大にも適用可能です。
超音波検査や内視鏡検査で前立腺の詳細な形態を評価し、最適な治療法を選択します。
効果発現までの期間の違い
効果が現れるまでの時間にも違いがあります。UroLiftは物理的に尿道を拡張するため、治療直後から効果を実感できるケースが多く見られます。
一方、Rezumは壊死した組織が吸収されるまでに1~3か月かかるため、効果の発現には時間を要します。早期の症状改善を希望される場合は、UroLiftが有利といえます。
術後の回復期間と日常生活への影響
UroLiftは術後のカテーテル留置が不要なケースが多く、治療当日から通常の生活に戻れる可能性が高い治療法です。
Rezumは術後のカテーテル留置期間に個人差があり、3~30日程度となります。多くの場合は2週間程度で、この期間は日常生活に一定の制限が生じます。
どちらの治療も入院での手術が一般的ですが、当院では、完全日帰り化の手術を提供しています。仕事や日常生活への早期復帰を重視される場合は、UroLiftが適している可能性があります。
性機能温存の観点から
性機能の温存は多くの患者様にとって重要な関心事です。UroLiftとRezumは、いずれも性機能温存が期待できる治療法です。
両治療とも射精機能および勃起機能への明らかな悪影響がなく、性的満足度も維持されます。逆行性射精の発生率は2~3%程度と非常に低く、従来のTURPと比較して大きな優位性があります。
性機能の温存を最優先される場合、どちらの治療法も優れた選択肢となります。
出血リスクと抗凝固療法との関係
抗血小板剤や抗凝固剤を服用されている患者様では、出血リスクの管理が重要です。UroLiftとRezumはいずれも出血が少ない治療法ですが、Rezumの方がより出血リスクが低いとされています。
抗凝固療法を中断できない患者様や、出血リスクの高い方には、Rezumが適している可能性があります。ただし、個々の状況に応じて主治医と相談することが重要です。
日帰り手術の実際の流れ
日帰り手術を受ける際の具体的な流れを理解しておくことは、不安の軽減につながります。ここでは、一般的な治療の流れを説明します。
術前の準備と検査
まず外来で診察を行い、問診や各種症状スコアのアンケートを実施します。国際前立腺症状スコア(IPSS)などで自覚症状を評価します。
次に排尿力ドックと呼ばれる一連の検査を行います。尿流量測定で排尿の勢いを計測し、残尿測定で排尿後の膀胱内尿量を確認します。超音波検査で前立腺の大きさや形状を評価します。
手術に向けた全身状態の評価として、感染症の有無を調べる採血や尿培養検査を実施します。心電図やレントゲン検査で全身状態を確認します。
必要に応じて内視鏡検査や膀胱内圧測定を行い、前立腺内部の形態や排尿機能を詳細に評価します。これらの検査結果をもとに、最適な治療法と麻酔方法を選択します。
手術当日の流れ
手術当日は、まず体温測定や血圧測定などのバイタルチェックを行います。血圧の異常高値や37.5℃以上の発熱がある場合、患者様の安全を考慮して手術が中止になることがあります。
術前処置として、尿道の局所麻酔や前立腺ブロックなどの局所麻酔を行います。患者様の状態によっては、静脈麻酔やガス麻酔を併用することもあります。20分前後の安静後、手術を開始します。
手術時間は5分から15分程度です。内視鏡を用いて治療を行い、終了後は10分程度休息していただきます。
UroLiftの場合、カテーテル留置が不要なケースでは、排尿後の残尿測定を行って問題がなければ帰宅となります。カテーテル留置が必要な場合やRezumの場合は、カテーテルを留置したまま帰宅していただきます。
術後の経過と注意点
術後数日間は、尿道の痛みや違和感、軽度の血尿が見られることがあります。これらは通常の反応で、処方された鎮痛薬や抗菌薬で対処します。
カテーテルが留置されている場合は、指示された期間後に外来で抜去します。UroLiftでは1~2日程度、Rezumでは個人差がありますが数日から2週間程度となります。
治療効果の評価は、UroLiftでは比較的早期に、Rezumでは1~3か月後に行います。定期的な外来受診で、排尿状態の改善を確認していきます。
まとめ:個別化された治療選択の重要性
前立腺肥大症の日帰り手術として、UroLiftとRezumは優れた選択肢です。両治療とも下部尿路症状の緩和において高い有効性と耐久性を実証しており、性機能の温存という大きな利点があります。
UroLiftは効果発現が早く、術後の回復も速やかで、カテーテル留置が不要なケースが多い治療法です。一方、Rezumはより広い範囲の前立腺形態に対応でき、出血リスクが低いという特徴があります。
どちらの治療法を選ぶべきかは、前立腺の大きさや形状、患者様の全身状態、生活スタイル、治療に対する希望など、多くの要素を総合的に判断する必要があります。
最適な治療選択のためには、専門医との十分な相談が不可欠です。個別化された共同意思決定アプローチにより、それぞれの患者様に最も適した治療法を選択することが、良好な治療成績につながります。

〈著者情報〉
泌尿器日帰り手術クリニック
uMIST東京代官山 -aging care plus-
院長 斎藤 恵介